りょうさかさんと

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【書評】「外国語学習の科学」参考になった5つの情報


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どうも、りょうさかさんです。

今回は「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)についてのご紹介です。

お子さんの外国語学習に悩んでいる親御さん、外国語学習を教えなきゃいけない小学校の先生にオススメの本です。

「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」とは

外国語学習には多くの情報が飛び交っています。

「CDやビデオを見せるだけで身に付く」「親の英語力は不要」「聞き流すだけでOK」などなど色々な宣伝文句があります。

それって実際どうなんでしょうか?

本書「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」では、外国語(主に英語)についてどのような学習メカニズムがあるのかを解説してくれます。

「母語を基礎に外国語を習得する」「どうして子どもは言葉を習得できるのか」といった言語学習の仕組みから、外国語学習を成功するための研究が紹介されます。

最終的には「効果的な外国語学習法」として10このポイントと2つの例がまとめられています。

詳しくは本書をご覧いただくとして、本書の中からわたしが特に参考になった5つの情報をご紹介したいと思います。

特に参考になったのは以下の5点です。

  1. 英語子育ては母語に影響するのか
  2. 全身反応教授法(Total Pfysical Response)の効果
  3. 言語習得に必要な最低条件は「インプット」+「アウトプットの必要性」
  4. 発達段階を飛び越えて習得できない
  5. 分野をしぼってインプットする

英語子育ては母語に影響するのか

幼児英語教育をする際に不安になるのが、日本語の習得は大丈夫か? という点だと思います。

「英語子育ては母語に影響するのか」について本書では以下のように書かれています。

要するに、十分に母語を聞いて育つ環境にあれば、幼児外国語教育なので外国語を聞かせるぐらいで、母語に悪影響が出るという心配はほとんど必要ないということです。

(引用)「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)p.46より

本書で紹介される事例は、外国語に毎週25分、計5時間触れた場合の例です。

これを踏まえると家庭での幼児英語教育や小学校の英語の授業で国語に影響がでることがないことがわかります。

またカミンズの研究でも「母語を学ぶことで外国語の力が伸びるし、外国語を学ぶことで母語の力も伸びる」という説があります。

詳しくは過去のこちらの記事をどうぞ⇒小学校3年生からの英語教育は早い? - りょうさかさんと

ただし、家族で海外に移住する場合は環境が、日本語よりも外国語の方が多くなってしまうので注意が必要です。 

全身反応教授法(Total Pfysical Response)の効果

全身反応教授法(トータルフィジカルレスポンス)を簡単に説明すると外国語の命令文を聞いて、反応する教授法のことです。

具体的には「Stand up」と言われて、立ち上がるように様々な指示に応えていきます。

(トータルフィジカルレスポンスについては以前のDWEの記事で取り上げました) 

「全身反応教授法(Total Pfysical Response)の効果」については以下のように書かれています。 

授業の70%は聞く活動、20%は話す活動、読み書きは10%にすぎなかったにもかかわらず、聞く、読む能力は口頭練習を中心としてオーディオリンガル教授法で学習した学生の三倍のスピードで習得され、話す力、書く力も劣らない、という結果が出ています。

つまり、リスニング能力が他の三技能(話す、読む、書く)にも転移する、ということが示されたわけです。

(引用)「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)p.97より

つまり「トータルフィジカルレスポンスは、オーディオリンガル教授法の三倍のスピードで習得できる」ということです。

そもそもオーディオリンガル教授法ってなんやねん? 

オーディオリンガル教授法とは1960年代に流行った手法で、口頭で肯定文を疑問に変化させたり、例文暗記をするなど母語を用いずにリスニングとスピーキングに重きを置いた指導法のことです。

確かに日本語でも、親から赤ちゃんに対しての発話では「命令形」「お願い」が多いですよね。

身体を動かしながら文全体の意味を理解することが重要なんですね。

言語習得に必要な最低条件は「インプット」+「アウトプットの必要性」

インプットなくしてアウトプットはありえないのですが、インプットの仕方、アウトプットの在り方にも最低条件があります。

例えば、テレビを見せっぱなしでは言語習得が十分にできません。

「テレビからは言語習得できない」については以下のように書かれています。

両親が聴覚障害でことばを話せず、親同士では手話の会話があったものの子どもには手話でも話しかけなかったため、主にテレビから言語を習得していた子どもがいました。ケースワーカーに発見された時のこの子は三歳九ヶ月で、その言語能力は、話させると文法的にかなり不自然だったといいます。

(引用)「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)p.100より

もちろんこれはDWEなどの幼児英語教育の動画教材を否定するものではありません。

言い換えれば「ただテレビで海外のニュースを見せても英語を喋ることができるようにならない」というニュアンスです。

ただここからわかることはインプットだけでは、言語習得が不完全だということです。

では、アウトプットについてはどのようなポイントが大切なのでしょうか。

アウトプットについて実際に行わなくても、頭の中でリハーサルをするだけでも話す能力が発達する研究が紹介されます。

「リハーサル」とは口に出さずに頭の中で英語で話している状況のことです。

日本語でもありますよね。

これからどう言おうかなと頭の中で整理したり、一人ニ役で会話のシミュレーションをしたり。

でも、これを行うのって「話す必要」があるからですよね。

つまり英語学習に必要なのは、「言語習得に必要な最低条件は「インプット」+「アウトプットの必要性」」(p.102より)ということです。

発達段階を飛び越えて習得できない

言語の習得には発達段階があり、「発達段階を飛び越えて習得できない」ということも紹介されます。

中学校英語のカリキュラムでは、三人称単数現在(三単現)の-Sは、かなり早く導入されます。ところが三単現の-Sが実際に使えるようになるのはかなり後のことだ、ということは数多くの研究によってわかっています。

(引用)「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)p.128より

つまり頭ではわかっているけれど、なかなか出来ないということです。

この発達段階を無視して間違いを指摘しても、英語嫌いにはなっても英語を上達することにはならないわけです。

子どもが間違った時には、指摘するのではなく正しい英語で言い換える方が良い、と言われているのはこういう背景があるからなんですね。

分野をしぼってインプットする

 インプットする際の注意点は、「分野をしぼってインプットする」ことです。

インプット(聞くこと・読むこと)を理解するには背景知識が重要になります。ただえさえ、外国語を理解することは難しいですから、日本語でもわからないような教材を使ってもむだです(中略)

リスニングは、聞いても20パーセントしかわからないような教材を聞くより、80パーセント以上わかる教材を何度も聞いた方が効果があります。

(引用)「外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か」(白井恭弘/岩波書店)p.164-165より

もっとシンプルに言えば、人は知っていることからしか学べないということでしょう。

DWEなどの幼児英語教材は、音がなくても内容がわかるように構成されているものが良い教材だと言われるのも納得です。

これを前提にすると…

  • 絵本を日本語で読んでから、英語版を読む。
  • 日本語吹き替え版の映画を見てから、吹き替えなし・字幕なしで映画を見る。
  • 聞き取れなかった英語は、スクリプトを見てから聞き直す

といった手法の効果があることがわかります。

出来そうなことからすぐにでも取り入れてみたいですね。

「外国語学習の科学」参考になった5つの情報のまとめ

最後にもう一度、わたしが参考になった情報をまとめておきます。

  • 英語子育ては母語に影響しない
  • 全身反応教授法(Total Pfysical Response)の効果大
  • 言語習得に必要な最低条件は「インプット」+「アウトプットの必要性」
  • 発達段階を飛び越えて習得できない
  • 分野をしぼってインプットする⇒知っていることをベースに学習する

これら以外にも役立つ情報が多数掲載されています。

今、英語の学習中の方、英語の指導に携わることを考えている方は一度読んでみてくださいね。

それでは、また。