りょうさかさんと

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りょうさかさんと

小学校3年生からの英語教育は早い?


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どうも、りょうさかさんです。

小学校で英語教科化について取り上げました。

さて、そもそも小学校3年生から英語を義務教育でする必要があるのでしょうか?

そこで、以下の2点について考えていきましょう。

  1. 他国の英語を学ぶ時期は?
  2. 母語である日本語が未熟なうちに外国語を学ぶことに日本語に影響はでないのか?

他国の英語を学ぶ時期は?

日本では2020年の小学校3年生から「外国語活動」、5年生から「外国語」の必修化が始まります。

では、同じ英語圏ではない中国・韓国・台湾の英語を学ぶ時期と量はどれくらいなのでしょうか?

文部科学省の資料に丁寧にまとめられています。

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(引用)小学校英語の現状・成果・課題について-文部科学省(平成27年4月28日)

こうして見ると小学校での英語教育は、中国・韓国・台湾に対して10年以上遅れていることがわかります。

今回の新指導要領によって日本は「小学校3年生からスタート」「中学年・週1コマ」「高学年・週2コマ」になり、ようやく中国に追いつくことになります。

母語である日本語が未熟なうちに外国語を学ぶことに日本語に影響はでないのか?

次に「母語である日本語が未熟なうちに外国語を学ぶことに日本語に影響はでないのか?」という疑問について考えいきましょう。

若年層への英語教育の弊害としてよく話題にあがるものの一つですよね。

わたしの個人的な考えを先に言えば「あくまで1理論にすぎず日本国内の英語教育には当てはまらないと考えられるので気にしなくてよい」というものです。

その理由についてご紹介しますね。

日本語が未熟だと外国語も未熟になる?

「セミリンガル」といわれる「2か国の会話レベルは出来るけれど、どちらの言語を使っても思考が苦手な状態」といった言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?

「セミリンガル」は差別用語という指摘もあり、近年は「ダブル・リミテッド・バイリンガル」という表現も使われています。

こう聞くと、やっぱり英語の早期教育には弊害があるような気がしますよね。

この「セミリンガル」は、ジム・カミンズ教授の論文として紹介されました。

2020年4月18日の「プレジデント・オンライン」の榎本 博明先生(心理学博士・МP人間科学研究所代表)の記事でも以下のように語られています。

バイリンガル教育が専門のカナダのトロント大学教授のジム・カミンズも、母語の能力が外国語学習を支えるとしている。トロント在住の日本人小学生を対象としたカミンズたちの研究によれば、母語の読み書き能力をしっかり身につけてからカナダに移住した子どもは、しばらくすると現地の子どもたち並みの読み書き能力を身につけることができる。それに対して、母語をきちんと身につける前の年少時に移住した子どもは、発音はわりとすぐに習得するものの、読み書き能力はなかなか身につかない。

(引用)わが子を「英語ペラペラにする」に潜む重大なリスク 「英語ができる=頭が良い」ではない (2/4) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

「母語が身に付いていないと外国語の読み書き能力はなかなか身に付かない」

「母語を伸ばせば、外国語も伸びるのだから母語を伸ばせ」

という主張ですね。

カミンズの研究の解釈

やっぱり外国語を学ぶよりも日本語をすべきなのでしょうか?

一方でこれについては、誤謬があるという指摘があります。

関西学院大学社会学部准教授の寺沢拓敬先生は、自身のブログで以下のような指摘をしています。

ここで非常に重要なのは、カミンズ氏は、第1言語(L1)・第2言語(L2)ではなく、X語(Lx)・Y語(Ly)という表現を使っていることです。つまり、ここでの定式化において、母語なのか第2言語なのかはあまり重要ではないということです。(中略)

カミンズも、実際、上記の論文のなかで、マジョリティの子どもの場合は、マイノリティ児童とは逆に、「母語」以外の言語 ――特に、マイノリティの言語―― によってイマージョン教育を受けることは効果的であり、また、公共性の観点からも望ましいと述べています

(引用)ジム・カミンズの言語能力理論と日本の第二言語教育 - こにしき(言葉・日本社会・教育)

大ざっぱに書くと「日本語を学ぶことで英語力が伸びるし、英語を学ぶことで日本語力も伸びる」ということです。

引用した記事では「日本における日本語・日本における英語」の状況が、カミンズの想定する状況とは違うので日本で素直に適用するのにも「ズレがある」と指摘しています。

また静岡大学教授の宇都宮裕章先生は「ダブルリミテッド言説に対する批判的論考」という研究報告で以下のような指摘をしています。

 前節で言及したカミンズは、バイリンガル教育の有効性を確立した研究者として知られている。氏の研究は、一貫してバイリンガリズムの支持とその理論的・実証的根拠を示すところにあった(宇都宮,2004)。(略)

 改めて確認しておきたいが、ダブルリミテッドとは事実でなく、やはり言説にすぎない。しかも、学習環境の様相如何によって都合よく解釈される危うさを内在した、それ自体も脆い言説である。

(引用)ダブルリミテッド言説に対する批判的論考-宇都宮裕章(平成 25 年 10 月 3 日)

こちらも大ざっぱに書くと「カミンズはバイリンガル教育の有効性を確立した研究者である。ダブルリミテッドは、事実ではなく言説にすぎない」というものです。

さて、あなたは2つの立場の意見を聞いてどう思いましたか?

「小学校3年生から英語は早い?」のまとめ

では、本題にもどって小学校3年生からの英語教育は早いのでしょうか?

中国・韓国・台湾と比較しても、日本は同程度の開始時期であり、特段早くないことがわかります。

また小学校3・4年生の量は、週1コマ程度です。

カミンズの理論を踏まえると母語への影響は、むしろ良い影響の方が多いように感じます。

これは、あくまでわたしの考えです。

あなたもぜひ、小学校3年生での英語が早いのかどうか? 考えてみて下さい。

それでは、また。