文部科学省の教育施策・改革って、色々ありますよね。
ちょっと思い浮かべてもらえますか?
浮かびましたか?
例えば、小学校英語の教科化、小学校におけるプログラミング教育の導入、STEAM教育、高校における「探求活動・課題研究」の取り組み、大学入試改革などなど。
いくつくらい思い浮かんだでしょう。
どうしてこんなに沢山の取り組みをするのか考えたことがあるでしょうか。
そこで今回は、文科省がどうして施策・改革をするのか解説しますよ。
結論から書くと「働く人が少なく、人生は長く、仕事は何が残っているのかわからない」という大前提があるからです。
文科省が改革をする3つの大前提
文科省は、というか学校教育では、子どもが社会に出て一人で生きていけることを目的に行います。
教育基本法だと「教育の目的」に以下のように書かれています。
第1条(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
この教育基本法の「目的」を達成するためには、その時々の現実社会を見据えて対応しなきゃいけません。
子ども達が大人になる15年後、20年後の社会を想定し、そこで必要となる能力の土台作りをすることが小学校・中学校という義務教育の役割となります。
ポイントになるのは、時代によって社会に出てから必要な力が変容していくという点です。
文科省としては「15年後、20年後の社会」「そこで必要となる能力」はどんなものなのか考える必要があります。
そこで、社会動向、統計、学術書などからわかる様々な日本の課題、世界と比較した課題を見出して、指導要領を改訂したり施策を打ったりするわけです。
その教育施策の大前提となるのが、以下の3つの要因です。
・少子高齢化による生産年齢人口の減少
・人生100年時代
・AIの進化
それでは一つずつ簡単に見ていきましょう。
少子高齢化による生産年齢人口の減少
少子高齢化問題については、周知の内容だと思います。この問題については以下の書籍がとても参考になります。
ちなみに上の書籍は、ブログでも以下のような形で取り上げました。
【自由研究の書き方】もし「2040年の高校野球地方予選の最小試合数」に取り組んだら - RYOSAKASANTO
「少子化問題」「高齢化問題」とわけるのではなく、「少子高齢化」と一つにして取り上げるのには生産年齢人口の問題があるからです。
生産年齢人口については、総務省の以下のグラフを見てみましょう。
(引用)総務省|平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来
グラフの青色が65歳以上、緑色が15歳~64歳の人口です。この緑色の部分が生産年齢人口となるわけです。
2020年を見てもらうと15歳~64歳の人口と65歳以上では約2倍ほど人口が違います。
もし2020年に生まれた子どもが働き始める2045年頃では1.43倍、40歳になる2060年には1.27倍多いだけです。
たった1.27倍多いだけの人数で、65歳以上の高齢者の年金、医療費、その他諸々をカバーしなきゃいけない未来が見えている、というわけです。
人生100年時代
次は「人生100年時代」について。こちらは「LIFE SHIFT」という有名な本でご存知の方も多いはず。2016年の書籍ですが、今なおを売れ続けています。
教育関係者の間では知らない人の方が少ないくらい有名な本ですし、多忙な教員の先生方は読む時間は作れなくても、内容自体は研修や講演で聞いたことがあると思います。
この本の冒頭にあるように、国連の推計によると2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されています。
「少子高齢化の生産年齢人口の減少」でも触れましたが、働く人の人口は減っているわけです。
一方で、寿命は伸びました。しかも昔の65歳と今の65歳、未来の65歳なら体力が全然違うんじゃね、という未来も見えつつあります。
定年延長みたいな話が政府から出るのは、実はココと関係しているわけです。
人生が100年になり、65歳以上でも元気なら全然働いてもらえるのではないか。そういう方法で、生産年齢人口の減少に対応できないか。そういう考え方なわけです。
実際、今の60歳くらいの体力を80歳くらいで保てるのであれば、65歳で定年退職というライフスタイル以外も考えられます。
一方で時代は進むし、技術も進歩しつづけます。20年前にスマホを持ち歩く世の中なんて想像できなかったわけです。
20歳から80歳まで働くとしたら、それくらいの革命を2~3回くらい経験し、それに順応し、使いこなせる人材じゃなきゃキビシイわけですよ。
それに繋がるのが次の要素です。
AIの進化
マイケル・A・オズボーン准教授(オックスフォード大学)が『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文を発表しました。
その内容は、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いというものでした。
(参考)オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」(週刊現代) | マネー現代 | 講談社(1/5)
「消える職業」「なくなる仕事」などのリストを見たことがある方も多いと思います。
これまでの「生産年齢人口の減少」「人生100年時代」は、言い換えれば「働き手が少なくなる」「働き方が多様になったり、長くなったりする」というものです。
この「AIの進化」はそんな状況の中、「どんな仕事が人に残っているのか」を問いかける課題ですね。
ぶっちゃ将来がわからない
これまで3つの前提を見てもらいました。一行でまとめるととこうなります。
「働く人が少なく、人生は長く、仕事は何が残っているのかわからない」
さて、このような状況で学校の先生方は、将来、社会に出て生きていけるようになる力を子ども達につけてもらわないといけません。
結構無理ゲーですよね。
たぶんこれまでは「まだ20年後ってこんなもんだろう」という予測ができた中で指導要領改訂であり、現場の教育活動だったんだと思います。
でもね、文科省の役人になるような偉い人でも「マジわからねえ」というのが今です。それでも一人でも多くの子ども達に人生をサバイブしてもらわなきゃいけない。
そういった経緯があって以下のような変更や取り組みがあるわけです。
・国内人口の減少により、国外での経済活動がより重要になるから…
⇒小学校英語の教科化。コミュニケーション重視へ。
・AI分野(人口知能やデータ処理)の人材不足が予測されるから…
⇒プログラミング教育の導入。小学校算数の領域で「資料の活用」を「データの活用」に変更。
・働く期間が長くなり、AIの進歩など学び続ける必要が強くなるから…
⇒「主体的に学ぶ人間性の育成、学び続ける姿勢」の育成。生涯教育への大学の活用。
・問題を解決したりイノベーションが起こせるように…
⇒「探求活動・課題研究」の取り組み。STEAM教育。
たぶんまだまだあると思いますが、このような大前提のもと改革や施策が考えられていると思ってもらって良いです。
もちろん文科省の改革や施策に問題がないわけではありません。
例えば、AI分野が大事だからといって小学校でプログラミング教育を導入することが解決方法として妥当かどうかはまた別のお話です。
わたしも子育ての際は、今日、ご紹介した3つの前提を意識して行っていますよ。それでは、また。
こんな本も読んでみると良いよ。