りょうさかさんと

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【書評】「スマホ脳」スマホを捨てよ町へ出よう


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どうも、りょうさかさんです。

今回は「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン/訳・久山葉子/新潮社)についてです。

あなたの手元にあるスマホ、気が付けば触っていませんか?

本書によるとわたしたちは1日2,600回以上スマホを触り、平均して10分に1度スマホを手に取っているようです。(本書p.69より)

それほど生活にかかせないスマホがわたしたちの体にどんな影響を与えるのでしょうか?

「スマホ脳」とは

「スマホ脳」とは、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンによる書籍です。

本書はこんな趣旨の前書きからスタートします。

「近年、スウェーデンでは大人の9人に1人以上が抗うつ剤を使用している。そして、他国でも同様の傾向が見られる。」

その原因の一つにスマホがあるのではないかと考えた筆者は、多くの論文や統計などをベースにしてスマホについて語ります。

本書の特徴は、脳のシステムを難しい専門用語を使うのではなく、進化の過程で生き残るために必要だったプログラムという風に語られる点です。

例えば、こんな風な説明があります。

「わたしたちがついつい食べすぎてしまうのは、明日食べ物があるかわからない時代に生き残るために出来上がった脳のプログラムによるもの」(本書p.28-31の意訳)

このように人類には進化の過程でつちかってきた脳のシステムがあります。

しかし、近年わたしたちの前に現れた「スマホ」は脳にハックするように作られており、脳がこれまでつちかったシステムで対応できないと述べられます。

では、脳のどんなシステムをハックしているかというと…例えば『「かもしれない」が大好きな脳』の報酬系をハックしていると指摘します。

この報酬系のハックは、いわゆるスマホゲーのガチャだけではなく、SNSなどのアプリやスマホそれ自体の通知機能なども該当します。

詳細を知りたい方は、ぜひ本書をお読みください。

スマホの子どもへの影響

さて、気になるのは、スマホの子どもへの影響です。

と、その前にどれくらい子どもはスマホを使っているのでしょうか?

2017年に行われたインターネットに関するスウェーデン国内の調査は以下の内容でした。

  • 乳児の4人に1人がインターネットを使っている。
  • 2歳児の半数以上がインターネットを毎日使っている。
  • 7歳児のほとんどがインターネットを毎日使っている。
  • 11歳は98%が自分のスマホを持っている。

(「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン/訳・久山葉子/新潮社)p.171より要約)

本書によると英国でも同様の調査があるようですし、世界中で似たような状況だそうです。

前述のようにスマホには、というかスマホで流行しているアプリには「脳の報酬系」をハックする側面があります。

この報酬系に関して、前頭葉がブレーキの役割を果たすのですが25~30歳になるまで完全に発達しないそうです。(本書p.173)

本書は、アルコールなどの中毒性のあるものに年齢制限しているのと同様にスマホに関しても注意すべきだと警鐘を鳴らします。

授業のタブレットはどうなのか?

授業中のタブレット端末利用の弊害について、1点簡単に触れられるのみです。

その内容は「小説の出来事の順番」の把握は、タブレットと紙では、紙の書籍で読んだ方が正答率が高かったというものです。(本書p.183)

それ以外では学校でのスマホ禁止にして成績が上がったことは書かれていますが、授業での活用がどう影響するかについてはまだわかっていないというのが現状のようです。

なお、スマホと紙でどちらが「覚えやすいか」については日本でも研究されています。

興味のある方はこちらの記事をどうぞ⇒

研究は常に遅れる

本書にわたしが好感を持ったポイントの一つとして、筆者の仮説を述べつつも「研究が追い付かない」と終盤でしっかり言及している点です。

まず計画を立て、被験者を集め、調査を実施し、結果分析をしてから、それをまとめたものを学術雑誌に発表する。これには通常4~5年かかる。つまり、今発表される研究の多くは2013年か2014年ごろに計画が始まったもので、その当時より、私たちがデジタルメディアに費やす時間は格段に増えている。

(引用)「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン/訳・久山葉子/新潮社)p.226

デジタルの発展、生活への浸透速度に研究速度が追い付いていない現実があるわけです。

例えばホリエモンは、4Gが全国津々浦々まで普及することによってスマホでYouTubeなどの映像媒体が見る人口が飛躍的に増えたと指摘しています。

(参考)4Gの普及とテレビ界の重鎮の死去で、テレビは今年終わる!?【NewsPicksコラボ】 - YouTube

このように「通信速度」一つとっても、その速度によってわたしたちが触れるデバイスの時間や内容、生活習慣まで変化する可能性があるわけです。

5Gは2020年3月からスタートしましたが、まだ無条件に使えるわけではありません。

5Gが普及し、それによる生活の変化、そして、わたしたちの体にどんな影響を与えるのか?

残念なことに、それが明らかになる頃には6Gが始まっているかもしれません。(6Gは2030年頃と予想されています)

デジタルに関しては良い面も悪い面もエビデンスは常に後手後手になると自覚しておきましょう。

デジタルデトックスという結論

本書の結論はデジタル機器を避けられない以上、適度に離れる時間を作ろう(=デジタルデトックス)という凡庸な結論です。

とはいえ、研究が後手後手になっている以上、慎重に考えるのならバランスをとって付き合っていくというのが普通の考え方で責められる結論ではないと思います。

前述したように脳には昔から培ってきた生き残るためのシステムがあります。

それをこの10年くらいで浸透したスマホに合わせて適応させようとすること自体に無理があるでしょう。

他方、デジタルデトックスをわたしたちは無意識のうちに取り入れているのではないかと思いました。

ジム、登山、キャンプなどが近年流行しているのも、わたしたちがスマホを忘れて体を動かすことを欲しているからではないでしょうか?

寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」ではありませんが、今の時代は「スマホは鞄に入れっぱなしにして山へ行こう」なのかもしれません。

「捨てよ」、もしくは「置いて」とまではいえないのが、スマホ脳なのかもしれせんね。

それでは、また。