りょうさかさんと

教育業界にいる陵坂さんが教育・子育て・DWEなどについて書くブログ

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2022年から「ゆとり教育」なのか?


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どうも、りょうさかさんです。

先日、こんな記事が週刊新潮に掲載されました。

22年春から「ゆとり教育」が再スタート 高校の指導要領に「総合的な探求の時間」が(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース(「週刊新潮」2021年10月21日号 掲載)

記事本文の冒頭にはこのように書かれています。

生徒・児童の学力を奪い、文部行政最大の失敗作といわれた「ゆとり教育」が、看板を替えて再スタートする。文科省が2022年春から実施する高校の新指導要領に〈総合的な探究の時間〉という学習プログラムが盛り込まれるのだ。中身は、ゆとり教育を引き継いだものだ。

さて、本当に2022年からの教育は「ゆとり教育」なのでしょうか?

結論を最初に書きますが、週刊誌の書くことだから正しいという先入観は捨てましょう。

ゆとり教育とは

「ゆとり教育」と一口に言っても使う人によって微妙に意味やニュアンスが変わります。

そこで一般的な定義の参考としてWikipediaを紹介しましょう。

ゆとり教育(文部科学省が指定した正式な名称でない)は、1980年代から始まった教育方針であり、この方針について文部科学省の出版する『学制百二十年史』では、各教科の指導内容大幅精選と思い切った授業時間削減が大きな特色とある(太文字引用者による)

(引用)ゆとり教育 - Wikipedia

ポイントは「指導内容の大幅精選」と「授業時間削減」の2点です。

では、この週刊新潮の記事はというと、「ゆとり教育」の「授業時間削減」については触れているものの冒頭の言葉、本文の流れから週刊新潮は「ゆとり教育」=「総合的な学習の時間」だと捉えていると読み取るのが妥当です。

このズレを抑えておきましょう。

「ゆとり教育」で学力が下がった原因は?

「ゆとり教育」で学力が下がったという考え方も多くの人が持っているところでしょう。

その真偽は一旦横に置いておいて「学力が下がった」という論拠としてよく用いられるのは、OECDの学力調査(PISA)の順位が下がったというデータです。

この一般論の理屈は「ゆとり教育」によって授業内容の大幅削減と授業時間減があり、その結果、PISAの順位が下がったというものです。

では、週刊新潮の記事ではどのように書かれているでしょうか?

週刊新潮では、このように書かれています

「〈総合的な学習の時間〉は、ゆとり教育の目玉。たとえば中学では70~130単位時間が必修とされたのですが、内容は教師の裁量に任されたため、何を教えてよいか分からないという事例が続発したのです」(同)

 例えば〈ドラえもんのハリボテ作り〉や〈アイドルのダンスの真似〉から、果ては〈東京タワーに登って景色を眺める〉、〈市内のお店の食べ歩き〉までが授業になったのである。結果、03年と06年に実施されたOECDの学習到達度調査(PISA)で、日本は大きく順位を落とした。いわゆる“PISAショック”である。

「総合的な学習の時間」の内容に続いて、同段落でPISAショックを紹介していることから、そこに因果関係があるように読み取るのが自然でしょう。

つまり週刊新潮の論調は「ゆとり教育」の象徴である「総合的な学習の時間」のせいで「PISA」の順位が下がったと読むことができます。

「ゆとり教育」観の違い

ここで一度、ここまでの内容を整理しておきましょう。

一般的な「ゆとり教育」

  • 「ゆとり教育」は各教科の指導内容大幅精選と思い切った授業時間削減が大きな特色
  • 「ゆとり教育」によって授業内容の大幅削減と授業時間減があり、PISAの順位が下がった

週刊新潮の「ゆとり教育」

  • 週刊新潮の「ゆとり教育」は、「総合的な学習の時間」に象徴されるもの
  • 「ゆとり教育」の象徴である「総合的な学習の時間」のせいでPISAの順位が下がった

2022年から「ゆとり教育」なのか?

では、週刊新潮の記事タイトル「22年春から「ゆとり教育」が再スタート 高校の指導要領に「総合な探求の時間」が」は正しいのでしょうか?

先ほど整理したように週刊新潮の定義では、「ゆとり教育」=「総合的な学習の時間」です。

2022年から「総合的な探究の時間」が始まるのは事実ですから、週刊新潮の教育観では「ゆとり教育」だという主張は筋が通っています。

しかし、一般的な「ゆとり教育」は「指導内容大幅精選と授業時間削減」ですから、一般の方が思い浮かべる「ゆとり教育」ではありません。

2022年の新指導要領

では、2022年の指導内容は、大幅削減、授業時間削減があるのでしょうか?

文部科学省が2018年7月9日に公開した新学習指導要領についてこのように書かれています。

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小学校の外国語教育の教科化、高校の新科目「公共」の新設など

各教科等で育む資質・能力を明確化し、目標や内容を構造的に示す

学習内容の削減は行わない

(引用)新学習指導要領について(文部科学省2018年7月9日)

「学習内容の削減はない」とハッキリ書かれています。

それどころか学習内容自体は増加傾向です。

例えば、高校の指導内容でわかりやすい部分を紹介してみましょう。

  • 「現代の国語」において「契約書」など「実用的な文章」が増加。
  • 「英語」なら「高校卒業時に3,000語」だった語彙が「4,000~5,000語」に増加。
  • 「数学」なら「仮説検定」「頻度確率」が増加。
  • 「社会」なら「公共」が新設科目。
  • 共通必履修科目「情報Ⅰ」を新設し、プログラミング、情報セキュリティを学習。

これを見てもらえば、一般的な感覚の「ゆとり教育」とは、真逆をいく指導要領だということがわかってもらえると思います。

というわけで「総合的な探究の時間が始まるからゆとり教育だ」みたいな脊髄反射はせずに、むしろ学習内容が増えていることに対してじっくり準備することをわたしはオススメいたします。

それでは、また。

・PISAについてはこちらの記事をどうぞ