りょうさかさんと

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【早期教育の効果】小学校入学時点の学力はどこまで影響する?


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どうも、りょうさかさんです。

「早期教育」の効果についてです。

先に結論を書いておくと…

  • 早期教育における認知スキルの効果は、小学校3年生で失われる。
  • しかし、小1時の学力が小4学力に、小4時の学力は中1学力に影響する。

「はあ?」と思われた方は、ぜひ読んでみてください。

早期教育の効果とは

早期教育の研究としては「ペリー幼稚園プログラム」が有名です。

これは1962年から1967年にかけてアメリカで行われた就学前教育の実験です。

  • 低所得で学校教育上の「リスクが高い」とされる子ども(IQ70~85)を対象に2年間実施
  • 先生は修士号以上の学位をもつ児童心理学などの専門家
  • 子ども5.7人に対して先生が1名
  • 平日午前中に2.5時間の読み書き、歌などのレッスン
  • 毎週1.5時間の家庭訪問

この実験の面白いところは子どもが40才になるまで追跡調査が行われた点です。

結果、「ペリー幼稚園プログラム」を受けた子どもは、そうではない子どもと比較して、IQ、学歴、収入が高くなり、反社会的な行為をする割合も少なくなるという結果がわかりました。

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(引用) 幼児教育無償化に関する関係閣僚・与党実務者連絡会議(第1回)配布資料

幼児教育によって本人への効果はもちろん、生活保護の受給率、犯罪率にも好影響があることを考慮すると、幼児教育が社会全体にとって大きなメリットであることがわかります。

一方で「ペリー幼稚園プログラム」では、IQや学力の効果は短期間であることもわかりました。

(参考)ペリー・プレスクール・プロジェクト - Wikipedia

学力の効果は小学校3年生でなくなる

ペリー幼稚園プログラムについて「学力の経済学」(中室牧子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)では以下のように書かれています。

IQの差は、小学校入学前(4~5歳ごろ)にはそれなりに大きかったものの、小学校入学(6歳)とともに小さくなり、ついに8歳前後で差がなくなってしまっています。

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(引用)学力の経済学kindle版(中室牧子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)No.828-837より

つまり小学校入学前に大きかったIQの差は、小学校1年生の頃には小さな差になり、小学校3年生になるとほとんどなくなるということです。

にも関わらず、40歳になった時に大きな影響がでるのかというとIQや学力テストでは測ることのできない非認知スキルが関わっていると考えられています。 

非認知スキルについてはこちらの記事をどうぞ⇒

親は自分の子どもにどうすべきなのか?

さて、ここまで見てきたのは早期教育が個人や社会にどう影響を与えるかです。

では、一人の親のとしてはどうすれば良いのでしょうか?

「早期教育による学力・IQは小学校3年生の時には効果がなくなるから、非認知スキルを伸ばす取り組みを重視する」というのは一つの真理だとわたしは考えます。

一方で、ペリー幼稚園プログラムは、あくまで実験です。

現実には、小学校3年生で学力面で追いつかれてしまうかというと、そうではありません。 

むしろ小学校入学時点の学力差はそのまま小学校4年生の学力に反映されています。

「教育格差」(松岡亮二/筑摩書房)によると以下のように書かれています。

小学校入学時点の「読み書き」力は小学校4年生時点の算数と理科の学力と強く関連している。早期に観察された能力差ですべてが決まるわけではないが、「あまりできなかった」層から偏差値60以上となる割合は4%だ。一方、入学時点で「とてもよくできた」層は100人のうち26人が4年後に偏差値60(全体で上位の16人)になっている。

(引用)教育格差(松岡亮二/筑摩書房)p.120より

さらにこの小4学力は、中1学力まで関連しています。

すなわち、小4学力→小5学力→小6学力→中1学力と時点間の学力は強く関連していて、小4学力は3年後の中1学力の個人間分散(児童間の学力のばらつき)のだいたい半分を説明する。(中室・松岡・伊藤2019)。早い段階での学力がその後の学力の土台となっているわけで、これはここまで確認してきたように早い段階での格差がその後の学力や進路の格差に繋がっていることを示唆している。

(引用)教育格差(松岡亮二/筑摩書房)p.121より

つまり小学校入学時点の学力差が小4に影響し、小4の学力差が中学1年生まで影響するということです。

早期教育の効果はなくなるんじゃなかった?

そう疑問に思われた方もいるかもしれません。

理由は簡単です。

ペリー幼稚園プログラムの実験の場合は似たような子ども同士だけ(低所得層のアフリカ系アメリカ人)を比較しています。

一方、現実社会の統計では両親が高SES層(高所得者、高学歴な層)からそうではない層までを含んだ比較だからです。 

高SES層の親は、小学校入学前の子どもに対して非認知スキルに関わる「しつけ」「絵本の読み聞かせ」をしていますし、習い事なども積極的なことがわかっています。

もしあなたが子どもにある程度の「学力」を望むのであれば、非認知スキルを伸ばす関わりを中心に小学校入学前に「読み書き」の学習をしておいてください。

それでは、また。

 今回の記事で引用・参考にした書籍⇒