りょうさかさんと

教育業界にいる陵坂さんが教育・子育て・DWEなどについて書くブログ

りょうさかさんと

新型コロナから一年、子どもたちに与えた影響は?


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どうも、りょうさかさんです。

新型コロナウィルスの脅威にさらされて1年が経ちました。

子どもたちに与えた影響はなんだったのか記録として残しておきたいと思います。

2度の緊急事態宣言

この1年間で二回の緊急事態宣言がありました。

一回目の緊急事態宣言は全国的に2020年3月13日から始まり、全ての地域で解除されたのは2020年5月25日でした。

学校の一斉休校が始まり、5月以降は地域によって分散登校やオンライン授業などが行われました。

また飲食店の時短営業や動物園・博物館・美術館などの休園・休館が行われました。

二回目の緊急事態宣言は地域限定で2021年1月8日から始まり、2021年3月21日に解除される予定です。

一斉休校はなく、地域によって分散登校やオンライン授業、部活動の停止などの対応が行われました。

ただし一回目と同様に飲食店の時短営業、都立の動物園・博物館・美術館などの休園・休館が行われました。

休校による子どもの学力(認知能力)への影響

「学力」について「前年の同学年と比べてどうなのか」といった内容は、現時点で統計的な調査は出ていません。 

財務省の研究組織である「財務総合政策研究所」の広報誌ではこのように書かれています。

休校が子供の学力に与える影響については感染拡大以前から数多くの実証分析が行われているが、その多くは学校外期間の拡大は子供の学力格差を拡大するとの結果を示している。例えば、Downey et al.(2004)は米国を対象として非学校日と学校日が子供の認知能力に与える影響を分析しており、学力格差は非学校日で特に生じ、それは家庭属性に影響されることを示している。

(引用)コロナショックと教育・経済格差についての考察(財務総合政策研究所/2021年1月)

とてもシンプルにいえば休暇中の家庭環境が子どもの学力に格差を与えるということです。

休校中はオンライン授業を用いたケースもありました。

オンライン授業について同広報誌ではドイツの研究から「学力の低い子供がオンライン授業を受けた割合は学力が高い子供に比して13%低く、教師と週1回以上やり取りをした割合も10%低かった」と紹介しています。

新型コロナの影響分析を予測した論文から「オンライン講義等の代替的手段を考慮した上でも全世界平均で0.3年分から0.9年分の初中等教育が失われるという予測される」といった内容も紹介しています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの『新型コロナウイルス感染症によって拡大する教育格差』というレポートでは「臨時休校が子どもの教育を拡大させたと考えられる」と分析しています。

臨時休校前の勉強時間を学校での成績別にみると、もともと成績の高かった子どもほど勉強時間が長い傾向がある。臨時休校後は、全体として勉強時間は低下しているものの、その低下幅はもともと学力の低かった子どもほど大きい。そのため、臨時休校は子どもの教育格差を拡大させたと考えられる。

(引用)新型コロナウイルス感染症によって拡大する教育格差(三菱UFJリサーチ&コンサルティング/2020年8月21日)

また「コロナ禍では、低所得者の方が月収の減少した世帯が多い」ことも指摘されています。

休校による子どもの非認知能力への影響

上段では子どもの「学力」、いわば「認知能力」のことを見てきました。

「教育格差 」などを埋めるためには「非認知能力」が重要だと言われています。

「日本総研」の「新型コロナ感染が再拡大 本当の脅威は何か?」というレポートでは、国に深刻なマイナス影響を残す2点として「経済活動停滞の長期化」と「子どもの成長の阻害」を挙げています。 

第2に、子どもの成長を阻害することである。学校は再開されたものの、依然として多種多様な感染予防策を講じたうえでの非常時体制が続いている。これが、子どもの成長に心身両面から大きなマイナス影響を与えることが懸念される。長期的にどのような帰結をもたらすか現時点では不明であるが、最も懸念されるのは人的資源のクオリティ低下であろう。授業の量・質両面から学力を低下させることに加え、社会との接点が少なくなることで非認知能力の形成にも支障を来す。

(引用)新型コロナ感染が再拡大 本当の脅威は何か?(日本総研2020年7月13日)

「社会との接点が少なくなることで非認知能力の形成に支障を来す」という指摘があります。 

非認知能力(スキル)の重要性は、以前の記事でも書いた通りです。

学校だけではなく、都立の動物園、科学館、博物館、美術館などにも行くことのできない (行きにくい)状況は、非認知能力の形成にマイナスに働いた可能性があります。  

休校による高校入試出題範囲の縮小 

令和3年度入試では休校を配慮して高校入試の出題範囲が縮小される措置が取られました。

例えば、東京都なら以下の項目が出題範囲から除かれました。

  • 国語 中学3年生の教科書で学習する漢字
  • 数学 「三平方の定理」「標本調査」
  • 英語 「関係代名詞の主格のthat,which,who及び目的格のthat,whichの制限的用法」
  • 社会 「国民の生活と政府の役割」「私たちと国際社会の諸課題」
  • 理科 「力学的エネルギー」「科学技術と人間」「太陽系と恒星」「自然と人間」

(参考)令和3年度都立高校入試における出題範囲等について(リーフレット)|東京都教育委員会ホームページ

入試範囲外だからといって学校で教えないということはありませんが、どうしても手薄になってしまうことは避けられないでしょう。 

子どもの心身への影響

日本小児科学会が発表した「小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状」では「教育」について「教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身に影響を及ぼしている」と書かれています。

その文章からわたしが気になったものを抜粋して意訳すると…

  • 学校閉鎖は、教育の機会を奪うだけではなく屋外活動や社会的交流が減少することとも相まって、子どもを抑うつ傾向に陥らせている。
  • 学校給食やこども食堂で食事を食い繋いでいた貧困家庭の子どもが食生活に困窮する。
  • 乳幼児健診の受診が減少し、子どもの心身の健康上の問題を早期に発見することが難しくなり、大きな健康被害やQOLの低下に繋がることも危惧されている 
  • 予防接種の機会を失う小児が増えている事も大きな問題となっている。ワクチンで予防可能な疾患に罹患してしまうことによる被害は甚大となる。
  • 子どもでは、COVID-19が直接もたらす影響よりもCOVID-19関連健康被害の方が大きくなることが予想される。

(引用元)小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY(2020年11月11日)

子ども自身の心身の影響以外に「乳幼児受診の減少」「予防接種の差し控え」による健康被害が考えられるようです。 

女子高生の自殺者数が2倍

2020年は、小中高生の自殺が過去最多になりました。

文部科学省は15日、2020年に自殺した小中高校生は479人で、前年の339人から大幅に増え、過去最多となったと明らかにした。特に女子高校生が138人と2倍近くに増えており、文科省は新型コロナウイルスの影響とみて、詳しい分析を進める。(中略)

自殺の原因では「進路に関する悩み」や「学業不振」が多く、「親子関係の不和」が続いた。前年と同じ傾向だったが、精神疾患やうつ病の影響が前年よりも増えた。

(引用)小中高生の自殺、過去最多 コロナで大幅増、女子高生突出―文科省:時事ドットコム

津川友介先生の「新型コロナ流行下の日本人の不安・抑うつの危険因子が明らかに」という論文では、「コロナ禍」における自殺の原因の上流にある「不安・抑うつの原因」を分析しています。

日本で自殺者が増加している15-29歳の若年女性においては、介護者の存在 、ドメスティックバイオレンスの経験、新型コロナへの恐怖、新型コロナに関連する差別/偏見の経験が不安や抑うつの重要な危険因子だとわかりました。

(引用)新型コロナ流行下の日本人の不安・抑うつの危険因子が明らかに – 医療政策学×医療経済学(2021年3月3日)

この論文は、査読前と書かれています。

増加した女子高生の自殺の"直接"の原因が新型コロナウィルスかどうかはわかりませんが、多感な時期の子ども達に影響を与えた可能があります。 

未来の子どもたちの減少

2020年の出生数は、過去最低の87万人になりました。

厚生労働省は2021年2月22日、「人口動態統計速報(2020年12月分)」を公表した。2020年1月から12月速報の累計では、出生数が87万2,683人で過去最低、死亡数は138万4,544人で11年ぶりの減少となった。(中略)

2020年1月から12月の出生数は、前年比2万5,917人減の87万2,683人で過去最低。

 (引用)出生数は過去最低の87万2,683人、死亡数は11年ぶり減 | リセマム

ただし、あくまでこの数字は速報値です。

「令和2年版少子化社会対策白書」では「2019年の出生数は、86万5,234人」とあります。

妊娠届け出数の推移を見ると2020年の出生数の確定値はさらに下がるとみられています。

ちなみに「令和2年版少子化社会対策白書」では「2018年の出生数(91万8,400人)から5万3,166人の減少であり、「86万ショック」と呼ぶべき状況」 という文言があります。

2020年の出生数を仮に速報値の87万2,683人として、10年前と2010年は107万1,000人です。

この10年で20万人の新成人が減るということです。

 (参考)厚生労働省:平成22年(2010)人口動態統計の年間推計

これも新型コロナウィルスだけが影響だとはわかりませんが、里帰り出産などがしづらくなる状況や不安定な社会状況から妊娠を控えた可能性があります。

新型コロナから一年、子どもたちに与えた影響 まとめ

最後に「新型コロナウィルスから一年、子どもたちに与えた影響」についてまとめたいと思います。

  • 臨時休校による学力格差
  • 臨時休校・非常事態宣言による非認知能力の形成機会の減少
  • 臨時休校などによって子どもの心身への影響
  • 乳幼児健診の減少や予防接種の差し控え
  • 小中高生の自殺が最多
  • 出生数は過去最低。10年で20万人減

未来を担う子どもたちにとって、あまりにも辛い1年でした。

もちろん悪いことだけではなく、コロナ禍によって「家族の時間が増えた」「義務教育で一人一台端末が前倒しされた」など良いこともあったと思います。

何年後にかに振り返った時、「あの時は大変だったけど、そのお陰で社会がさらによくなったな」そんな風に思えるように日々の生活を踏みしめていきたいと思います。

それでは、また。