りょうさかさんと

教育業界にいる陵坂さんが教育・子育て・DWEなどについて書くブログ

りょうさかさんと

【書評】「日本人の9割が知らない遺伝の真実」とは?


f:id:ryosaka:20210130071940j:plain

どうも、りょうさかさんです。

今回は「遺伝」にまつわる本「日本人の9割が知らない遺伝の真実 」(SBクリエイティブ/安藤寿康)ついてのご紹介です。

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」とは

著者は、慶応義塾大学の安藤寿康教授。

専門は、行動遺伝学と教育心理学。

本書の内容は、前半は遺伝にまつわるお話、後半は教育にまつわるお話になっています。

前半の遺伝の話は、以前紹介したこちらのグラフの背景などについて述べられます。

f:id:ryosaka:20210127061830p:plain

(引用)数学は87%、IQは66%、収入は59%が遺伝の影響! 驚きの最新研究結果とは (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

結論から言ってしまうと『遺伝は遺伝しないが、人は生まれつき得意不得意を持っている』ということです。

なんだか、よくわからないですよね?

キーワードは、「相加的遺伝効果」と「非相加的遺伝効果」です。

相加的遺伝効果と非相加的遺伝効果

わたしも専門ではないので、それぞれ本書より引用・要約して説明しますね。(詳しく&厳密に知りたい方はぜひ、本書を読んでください)

「相加的遺伝効果」を2行で説明すると…

  1. 遺伝子には「平均」「平均より高い」「平均より低い」の3種類がある。
  2. これら遺伝子の効果の合計量が形質になるという考え方のこと。

「相加的遺伝効果」のポイントとしては、以下の3点です。

  1. 子どもの形質がどうなるかはあくまで確率。
  2. 重要なのは同じ親からさまざまな遺伝的素質の子どもが生まれる。
  3. 遺伝子の効果を足し算するだけでは説明しきれない。

(引用者による要約)「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(SBクリエイティブ/安藤寿康)p.86-89より

もちろんわたしたちに馴染みのある考え方である「ある特性について両親の値が両方とも高ければ高い子どもが生まれやすい」ことについても書かれています。

一方で、なぜ「遺伝子の効果を足し算するだけでは説明しきれないのか?」というと「非相加的遺伝効果」があるからです。

「非相加的遺伝効果」とは、「メンデルの法則」(優性・劣性)のような単純に足し算ではない遺伝の仕方のことを指します。

本書ではポーカーを例えてこのように表現しています。

ポーカーは5枚のカードの数字の合計点を競うのではなく、どんな組み合わせかで競います。一枚でも異なれば、役がつかないか、別の役になります。それと同じように、いくつもの遺伝子がセットで意味を持ち、そのセットの中の遺伝子が1つでも異なるとちがった機能をもつような遺伝様式です。

(引用)「日本人の9割が知らない遺伝の真実 」(SBクリエイティブ/安藤寿康)p.90より

さらにこんな記述も本書内にはあります。

ポリジーン遺伝の場合、子どもの形質は両親の平均値を中心に分散します。さらに、平均へ回帰しようとする効果が働きますから、高い形質同士の親から生まれた子どもの形質は両親の平均よりも下に、低い形質同士の親から生まれた子どもの形質は両親の平均より上になることが、確率的に高くなるといえます。

(引用)「日本人の9割が知らない遺伝の真実 」(SBクリエイティブ/安藤寿康)p.112-113より

相加的遺伝と非相加的遺伝に加えて、多数の遺伝子が関わってくるため「親と同じ特徴を持った子どもが生まれてくることは極めてまれ」(本書p.94)であり、そういった文脈から「遺伝は遺伝しない」と著者は指摘しています。 

環境の影響とは?

遺伝以外の影響には「環境」があるわけですが、「環境」も「共有環境」と「非共有環境」の2つに分けられます。

「共有環境」とは、単なる環境ではなく、家族を類似させる効果をもつ環境のことです。

本書では、単なる蔵書数ではなく、親が読書する姿を見せているか、親と本について会話する頻度、美術館や博物館に連れていく機会などの環境影響の総体的なものが共有環境だと語られます。

一方、「非共有環境」とは、家族を異ならせようとする環境のことです。

本書では、親が怒っている姿も兄弟によっては理不尽だと受け止めたり、信頼できると受けとるかもしれないという例を出して、個別の体験に加えて同じ出来事でも感じ方が違えば非共有環境だと述べられます。

研究の結果、子ども自身の好き嫌い、どれくらい時間を費やすかは、ほとんど遺伝と非共有環境だけ説明できてしまったそうです。

個別の環境要因の影響は極めて小さく、寄与率が1%に達しないケースがほとんどです。

(引用)「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(SBクリエイティブ/安藤寿康)p.75

本書でかろうじて効果が見られた例として以下の2つが紹介されています。

  1. 母が子どもに間接的に示す環境が娘のスポーツ観戦にかかわる。
  2. 父が本を読んでいる姿を見せると息子が読書を好むようになる。

誤解がないように書いておくと、本書の主張は、親や家庭が不要という意味ではありません。

「親が一つ何かをすれば、子どもに一つ影響が出る」という単純なものではないということです。

勉強にも生まれつき得手不得手がある

本書はこういった記述を積み重ねて 『遺伝は遺伝しないが、人は生まれつき得意不得意を持っている』と主張します。

生まれつき得手不得手があるのは当たり前のように感じると思います。

運動神経の良さや、感性の鋭さなどわたしたちは日常で当たり前のこととして受け入れています。

さて、「勉強」についてはどのように述べられているのでしょうか。

本書によると以下のように述べられます。

  1. IQは70%以上、学力は50~60%くらいの遺伝率がある。
  2. 学力の場合、さらに20~30%程度、共有環境の影響が見られる。
  3. つまり学力の70~90%は、子ども自身にはどうしようもないところで決定している

(引用者による要約)「日本人の9割が知らない遺伝の真実」(SBクリエイティブ/安藤寿康)p.144-145より

一人の親として厄介なところは、共有環境が20~30%も影響があるのに個別の環境要因の影響は1%未満ということです。

蔵書を多くするとかそんな単純なワンアクションで何か影響がでるわけじゃないんです。 

またそもそも生まれつき得手不得手があります。

誰もがトレーニングすれば100m走を11秒00で走れるわけではありません。

(高校生男子の平均タイムは12秒09。(参考)陸上100mの中学・高校男女別の平均タイム - RUNNAL[ランナル])。

それなのに勉強だとどうして努力すれば誰でも出来るような認識なんでしょうか。

歌が上手い事、絵が上手いこと、運動神経が良いことのように、勉強が出来ることだって素晴らしい特技であり、誰もが簡単にできることじゃないんです。

親として出来るのは「色々な経験を小さな頃から一緒に経験していって、好きなものを出来るだけ沢山見つける」そんな風なことをぼんやりと考えました。 

そう思うと外出しづらい新型コロナがより憎らしいですね。

それでは、また。