りょうさかさんと

教育業界にいる陵坂さんが教育・子育て・DWEなどについて書くブログ

りょうさかさんと

母親の学歴が高いと子供の学力が高くなるのは父親のせい


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どうも、りょうさかさんです。

講談社さんが運営する現代オンラインの「子どもの学力は「母親の学歴」で決まる…? 文科省の衝撃レポート」という記事がツィッターなどで話題になっていました。

記事の内容自体はマネー現代編集部さんが書かれたもので「教育関係者」だったら知っている内容です。

ただタイトルが強烈なのと取り上げたポイントが古式ゆかしき目線だったので、衝撃を受けた方も多かったようです。

どうも「母親の責任が増す」「プレッシャー」など思われている方もいるようですが、わたしは違うと考えています。

どうして統計上、このような結果がでるんでしょうか?

わたしの考えは「父親が育児しなさすぎて母親の学歴と相関してるんじゃないか」というものです。

元記事の内容とは

この記事のタイトルにもある母親の学歴と学力の関係について記事本文を引用しておきましょう。

さらに興味深いのは、保護者の学歴と児童生徒の学力との関係だ。保護者の学歴が高いほど児童生徒の学力が高い傾向がみられるが、より詳しく見ると、児童生徒の学力は父親の学歴より母親の学歴との関係性がより強く出ていることだ。

中3の数学Bでは、父親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」のケースだと正答率は44・1%、「大学」になると56・55%に上り、その差は12・4ポイント。一方、母親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」だと43・4%、「大学」になると60・0%になり、差は16・6ポイントに広がり、父親の学歴にともなう差より拡大していることがわかるのだ。

(引用)子どもの学力は「母親の学歴」で決まる…? 文科省の衝撃レポート(マネー現代編集部) | マネー現代 | 講談社(1/3)

この他にも同じ単身赴任の家庭なら父親が単身赴任の方が学力が高い父親の帰りが遅い方が学力が高いなど、まるで教育に父親が携わらない方が学力が上がるように受け取ってしまいそうな情報が並びます。

この現代オンラインの記事が参照にしているのは、こちらの資料。

「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女子大学)報告書 (PDF/14.07MB)

記事の内容は、第1部統計分析「第1章 家庭の社会経済的背景(SES)の尺度構成」~「第5章 学力格差の変動 –平成25年度と平成29年度の比較分析-」が元となっています。

現代オンラインの末尾にはあくまで相関関係であり因果関係はないと書いてあります。

確かにこの手の分析から因果関係を導くのは非常に難しいため、どれだけ丁寧に相関関係を導き、参考にしていくかが大切です。

しかし、現代オンラインの文章では前述のように女性が子どもの教育をした方が良いと受け取ってしまいそうになると思います。

母親の学歴の影響について

「学力の経済」(中室牧子)にあるように教育に関するエビデンスとして大規模な調査のものは海外が主流です。

そして、特に「学力」に影響のある要素は「遺伝」と「経済状況」だと言われています。

にも関わらず、どうして母親の学歴がクローズアップされてしまうのでしょうか。

まずこの結果が日本では珍しくない例として他の調査をご紹介しましょう。ある程度の母数をしっかり調べているところでいえばベネッセ教育総合研究所の研究です。

(参考)母学歴と教育意識・行動の関係:教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 - ベネッセ教育総合研究所

今回の文科省の調査ほど大きい調査ではありませんが「母親の学歴と子どもの学歴」についての論文だと例えばこちらもあります。

(参考)CiNii 論文 -  母親学歴が子どもの学歴に与える影響 : 大学生へのアンケート調査の分析と検討

この論文自体は調査の母数が少なく、範囲も限定的なのであまり参考にはできません。しかし、先行研究の見解がまとめられていて、その部分は参考になります。

この内容は今回の文科省の調査、ベネッセの調査とも共通します。

そこから読み取れるのは…

  • 母親の学歴が高いほど、家庭学習の量的な時間が多い
  • 読書や娯楽などのルールがしっかりしている
  • 母親が大卒か非大卒かどうかが、大学受験に対する高校生の学習意欲や学習時間を決定している
  • 男女の家庭での性別役割分業の影響

ということ。

では、どうして母親の学歴が子どもの学力に影響するのでしょうか?

子育て世代の育児メインは母親

この文科省の平成29年度のアンケートは小6、中3の児童生徒を持つ保護者が対象です。

仮に小6(12歳)の母親に絞って考えてみましょう。

厚生労働省のサイトによると平成17年の第一子を出産した平均年齢は29.1歳となっています。

これは平均ですから前後5歳に幅を取って考えると24歳~34歳がボリュームゾーンでしょう。

(参考)厚生労働省:平成22年度 「出生に関する統計」の概況

すると、このアンケートを答えた母親のボリュームゾーンは12年後の36~46歳です。中3の親なら39〜49歳です。

まずこういう年齢の方が回答者だということを頭に思い浮かべておいてくださいね。

では、日本の育児はどのような状況なんでしょうか。

こちらも厚生労働省のサイトを見てみましょう。

ピンク(夫の育児時間)のグラフに注目!!

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男全然すくねー!

0歳の時に77分

年々少なくなって子どもが小学校入学時には、たった8分

8分だったら絵本1冊読めるかどうかの時間です。

普通に考えれば毎日絵本を読むのは無理でも週末には遊んだり、どこか連れていっているはず。

ということは週末の土日しか育児をしていない父親がほとんど。

その上、8分ということは、土日のどちらか1日に1時間という頻度です。

しかも、平均でこれってことはゼロ時間の父親も結構いるってことですよね。

これでね、父親が子どもの学力に大きな影響を残せると考える方が不自然なわけです!

わたしも今すぐ妻に「ありがとう!」と感謝して、育児の時間増やします!!

これを見てる子どものいるお父さん、まだ間に合うからこれまでの感謝を妻に伝えて、即育児だ!

ちなみに内閣府の少子化対策キッズページの資料だと…

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アメリカ、ヨーロッパの3分の2~半分程度!

フランスは育児の時間は日本と同じ程度ですが、その代り家事の時間を約2.5倍してますからね。

ただ男性だって育児したくても難しい現状もあります。

男性就業者の一週間当たりの労働時間を見てみると …

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35~59時間を一緒にすべきじゃないと思いますが、35~39歳がほとんど35~59時間働いています。

推測になりますが、ほとんど毎日残業を1~2時間はしている計算です。(この資料だと39歳以上の数字はわかりません)

ちなみに内閣府の少子化対策キッズページの資料だと

ちょうど子育てをする時期にある30代、40代の男の人の働き方をみてみよう。2015(平成27)年では、6人に1人が、週に60時間以上も働いているんだ。

6人に1人が週60時間以上! 

これに往復の通勤時間が加わるわけで「家に帰ってきてどれだけのことが出来るんだ? 子ども寝てるよね」っていう父親側の状況も併せて覚えておきましょう。

ちなみに父親の帰宅時間が遅い方が学力が高い件について

実はこれ、帰宅時間が遅い父親ほど年収が高い傾向がわかっています。

つまり、それだけ教育に投資できる金額が違うんですよ。

悲しいけれど1時間早く帰ってくるより、経済環境の方が学力への影響が大きいってだけ。

ただ間違っても「男は残業して稼いで、育児は母親に全部任した方が学力上がるんだ」とか言わないよーに。

さて、母親の学歴が子どもの学力に影響する理由は「育児をしているのがほとんど母親だから」というとってもシンプルなものだと考えられるのはご理解いただけたと思います。

ここから下は興味を持たれた方用の補足内容。

そもそも親の学歴がどうして影響するのかという背景についてです。

親の学歴と子どもの学歴意識の関係

親の学歴と教育意識の関係についてですが、前述のように母親の学歴が高いほど学習時間が長いなどの要素があります。

こちらは先ほど紹介したベネッセ教育総合研究所の資料です。

文科省の調査と同様に母親の学歴が高いほど教育意識が高いことがわかります。

特に学歴による差が大きく見られたのは、「子どもが小さいころ、絵本の読み聞かせをした」「博物館や美術館に連れて行く」「家には、本(マンガや雑誌を除く)がたくさんある」「本(雑誌や漫画を除く)を読む」「美術館や美術の展覧会へ行く」「子どもが英語や外国の文化にふれるよう意識している」などの項目である。すなわち、本や読み聞かせといった「文字・読書習慣との親和性」と美術館や博物館などの「芸術や外国文化への志向性」が階層と密接に関係していることがわかる。

(引用)母学歴と教育意識・行動の関係:教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 - ベネッセ教育総合研究所

非認知スキルといった昨今重要とされるスキルを育むのに必要な行動も学歴が高いほどよく行われていることがわかります。

そして、保護者の学歴イメージは子ども自身の学歴イメージにも影響を及ぼします。 

次に内閣府の行った平成23年度「親と子の生活意識に関する調査」を見てみましょう。対象は中学3年生の子ども4000人と保護者4000人。両者に質問し、意識調査を行っています。

その中に「理想と現実の学歴目標」を問う設問があります。 

子と保護者双方に聞いている質問(子調査問 15/保護者調査問 10:現実的な学歴)について、子の回答を保護者の回答別にみると、『大学・大学院まで』と回答した保護者の子では、9割弱が『大学・大学院まで』と回答している。

また、「高等学校まで」と回答した保護者の子では7割半ばが「高等学校まで」(75.3%)と回答しており、それ以外の学校種でみても保護者の回答が子の回答でも多い傾向が強くみられる。

(引用)平成23年度「親と子の生活意識に関する調査」全体(PDF版) - 内閣府

このように保護者と子どもの学歴目標が近い傾向があります。

保護者の「大学まで行った方がいいよ」「高校出たら働きなさい」という考えが子どもにも強く反映されていると考えられますね。

推測ですが、学歴のメリットを体感した保護者ほど子どもにも学歴を求めているのではないでしょうか。

厚生労働省のデータを参考にすると「大卒」と「高卒」では生涯年収で数千万円の差が出ることがわかっています。 

(参考)平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

この差を肌で感じている大卒の保護者の方が子どもへ求める学歴も高くなるのは自然で、それが教育意識にも表れていると推測できます。

女性の進路のバラツキ

これに加えて、母親の学歴が統計上、子どもの学力に影響を与えやすい要因として考えられるのは女性の進路のバラつきです。

父親の最終学歴と母親の最終学歴の大きな違いは短大卒の割合ですよね。

 例えば「小6」の父親と母親の最終学歴を比べてみましょう。

最終学歴 父親 母親
小・中卒 5.1% 3.9%
高校・専修卒 34.5% 34.6%
短大・高等専門・専門卒 15.1% 40.6%
大卒 30.2% 16.4%
大学院卒 4% 0.9%
その他 0.2% 0.1%
不明 10.8% 3.4%

(引用)「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女子大学)報告書 (PDF/14.07MB)

この割合を比べると父親の49.6%が「高校・専修・短大ほか卒」母親の75.2%が「高校・専修・短大ほか卒」と大学進学率の差が大きく出ていることがわかります。

つまり母親の子どもに対する学歴への意識の差が出やすく、結果に反映されやすいと推測できますよね。 

まとめ

  • 父親は育児をできておらず、母親メインの育児になっている。
  • 保護者の学歴意識が、子どもの学歴意識に影響する。

ちなみに統計的にどういう教育をすると学力が高くなると言われているかというと以前のこちらの記事で書きましたのでご参考に。 

子どもの笑顔が見られる時間ってほんとわずか!

お父さん方、一緒に子育て頑張りましょう!

それでは、また。

この本で統計を勉強しようかと考え中です。