どうも、りょうさかさんです。
教科書についてこれまでも何回か取り上げてきました。
エビデンスによると教科書は学力にあまり影響しない話。また教科書採択制度とはどういったもので、どう教科書が地域ごとに決められているか。
今回は教科書問題についてです。教育関係に就職を考えている学生さんに読んでもらいたい内容にしようと思います。
学力の話はこちらをどうぞ。
教科書の決め方はこちらをどうぞ。
教科書問題とは?
教科書問題と一口に言っても色々あります。歴史教科書問題や少し前に発覚した教科書謝礼(閲覧)問題です。今回取り上げるのは教科書謝礼問題の方です。
教科書謝礼問題とは検定中の教科書を教員・校長に見せて意見の対価に謝礼(金銭)を支払ったというもの。新聞報道などでもだいぶ取り上げられましたよね。もう時間が経ってしまったので忘れてしまった方も多いのではないでしょうか。
既に報告済みの三省堂を含む全22社のうち、12社が検定中の教科書を教員ら延べ5147人に見せ、うち10社が延べ3996人に謝礼として数千円から5万円の金品を渡していました。採択権限を持つ教育長や教育委員に歳暮や中元を贈っていたあきれた実態が次々と明らかになりました。
(上文章・図ともにこちらより引用)教科書謝礼、業者と教師の癒着蔓延 10社4000人に謝礼 | 一般社団法人 全国教育問題協議会
文部科学省だけでなく、公正取引委員会の捜査も入っています。
さて、この上の方の記事の引用をみると22社中10社という半数近い教科書会社が教員に金銭を渡していることがわかります。
高校が一校毎の教科書採択なのに反して、義務教育は市町村単位で採用が決まるのでリスクを負ってまで不正をするメリットがあるんでしょうね。
教科書会社がどんな教科書を発行しているかはこちらから確認することが出来ます。
ちなみに、もちろん高等学校の方でも問題が起きています。ただ件数などが少ないのはおそらく上記のような理由でしょう。
(参考)文科省、高校教科書の採択1カ月半延期へ :日本経済新聞
どうして不正が起きるのか
いくら資本主義という競争社会だとはいえ、どうしてここまで不正が起きるのでしょうか。こんなのどこの業界でもある話だよって思われるかもしれませんが…4000人だよ。
わたしの考えは教科書採択が4年に一度に行われるからというものです。
教科書採択制度の時にも紹介しましたが教科書は通常4年に一度、採択が行われます。じゃあ、どの程度の市場規模なんでしょうか。教科書の価格はこちらから見ることができます。
(参考)平成29 年度使用教科書定価表 平成29年2 月一般社団法人 教科書協会
これによると一見、会社によって価格が違うように見えます。実は体裁(上下巻や分冊形態)によって価格の前後があるだけである教科の学年で見れば、どの教科書会社の教科書であっても同じ価格になるようになっています。教科書は、教科書会社ではなく国が価格を決めているのでこういう風になっているんです。
具体的に国語の小学1年生を見てみると…。
東京書籍の国語1上は309円、1下は398円。合計707円
学校図書の国語1上は333円、1下は374円。合計707円
ほら、一緒でしょ。で、この価格を見てどう思いますか?
教科書ってフルカラーで100頁を越えるし、たぶん子どもが使うことを前提に丈夫な紙や装丁にしているはずです。にも拘わらず、1冊の価格は週刊誌なんかとほとんど変わりません。儲かっているのかな? ってレベルなんですが一度採択されれば全く同じ書籍を4年間、小学校なら6学年分、中学校なら3学年分売り続けることが出来るわけです。しかも確実に児童・生徒数分売れるわけ。
「すげー」って感じですが、逆に言えば「採択が落ちれば4年間収入がないことが確定する」という事業でもあるわけです。もちろん通常の会社であってもコンペに落ちたら4年間どころかずっとチャンスが巡ってこない場合もあると思います。
でもさ、教科書は市町村単位で一斉にある年に採択をするわけ。つまり、あそこがダメでもこっちで、みたいな考えがしにくい。そして、市町村単位の数は固定されている。ゼロサムなんです。パイの取り合いをしているんですね。
(文科省のこちらのページによると平成26年度の教科書無償給与に関する予算額として413億円を計上しているのでこの取り合いをしていることになる)
しかも、人口減少、特に少子化の流れをモロに受けてそのパイ自体が減り続けているという構造です。
少子化問題は教育業界全体における話でもありますが、教科書会社以外の会社は「幼児教育」「高齢者」「社会人の学び直し」等と児童・生徒数に縛られない顧客を見出すことが出来ますし、その範囲は国外にも求めることが出来ます。
でも教科書会社は国内にしか市場がありません。そして、繰り返しになりますが少子化の為、パイは減り続けている。だから、そのパイの奪い合いが熾烈になった結果が、不正行為だと考えています。
教科書問題はなくならないのか?
さて、公開されている情報と教科書会社の構造からどうして教科書会社が金銭を渡すようなことになったのか考えてきました。報道を見る限り、意見聴取などの仕事の対価として教科書会社はお金を支払っています。
おそらく受け取った教員の方は労働の対価として社会通念上認められると考えたんじゃないでしょうか。
でもね。
お金を受け取ったのにも関わらず採択業務に携わった方もいるわけです。
公平性・透明性を考えれば選定の仕事が来た時に辞退すれば良いのに。
さて、文科省も公正の徹底などと通知を出しています。効果があるんでしょうか。
(参考)教科書採択における公正確保の徹底等について(通知):文部科学省
次に問題を起こすと発行停止なんて噂もありますが、出来るんでしょうか。仮に全教科書を発行している東京書籍さんが発行停止になった場合、とてつもなく大きい影響が出ます。
例えば平成29年度の福島県の採択を見てみましょう。
(引用)http://www.chuoh-kyouiku.co.jp/pdf/corporation/support/h29/h29_07.pdf
国語以外ほとんど東京書籍を使っています。こんな状況で仮にもう一度東京書籍が金銭を渡したとしても文科省は教科書発行停止に踏み切れるんでしょうか? ちょっと躊躇しそうな感じがしませんか(笑) 大混乱がおきるよ。
まあ、税金が使われているんで、問題が起こった時にはどこの会社であっても発行停止にしてくれないと国民としては困ります。と文科省を煽っておきます。
不正によって教科書発行停止になった場合は、4年間収入ゼロが確定するので会社潰れちゃうよね。リスク・リターンが釣り合わないようにするために「発行停止に絶対する!」とキッチリ宣言するだけでも不正行為をする教科書会社はなくなると思うのですが…。
また一部新聞報道では採択の公平性という観点から公開PRの場を設けるなんて案もあるそうです。良い試みですよね。
17年度から導入が検討されているのが、採択関係者に教科書会社が教科書の特長をPRする合同説明会の開催だ。
現行は、採択期間中の教科書会社による説明会は禁止されている。これは「自由競争だと大手が有利になってしまうため」(文科省幹部)だが、それが逆に各社の水面下の営業活動を過熱させる要因にもなった。
複数の教科書会社の関係者は「公平な機会を設けるのはいいことだが、採択地区や教科の数を考えると、説明会は膨大な回数になるのではないか。現実的にできるのか」と指摘する。文科省担当者は「開催回数、時期はある程度絞るしかない」と話す。
(引用)https://mainichi.jp/articles/20160225/k00/00m/040/126000c
ただ「説明会が膨大だから現実的ではないと主張する」この教科書会社の関係者の発言はポジショントークだと思います。説明会をすると困るからこう言っているのかなと勘ぐってしまいました。
だって、別に会場ごとに説明会をする必要があるの?
WEBで説明会をすれば1回で済むから小規模な会社でも問題ないし、採択の公平性透明性も保たれるでしょ。質問があれば文章で送付して、後日一斉に解答をオープンにすれば良いんだし。そんなことに教科書会社の経費を使わすよりも、教科書の質を良くするために使ってもらった方が国民に還元されるからいいよね。
教科書問題の解決方法
実は簡単な解決方法があってそれは「学校毎に教科書を決めて良い」と法律を変えてしまうことです。実際に高校はそうやって学校毎に教科書を変えてやっています。それを小・中学校でもしちゃえばいい。修学旅行の業者も授業で使う各教材も各学校で決めてるじゃん。教科書もそれと同じでいいんじゃないの?
また前述のように教科書で学力の差が生まれないとエビデンスがあるので、学校毎に使う教科書が違ったとしても大きな問題は起きません。教科書検定制度ってすごいね。
コストを下げるなら、それを全て電子書籍でしちゃえば一番楽。すでに教員用のデジタル教科書を作っているんだから技術的には楽勝なはずです。
教科書販売で食いつないでいる学校付近の教科書受け持ち書店さんや教科書取次会社さんには申し訳ないけど、それを各学校の児童生徒の端末にダウンロードして使ってもらう。
そういうシステムになれば高校教科書採択では一校毎の採択なので不正のメリットというか費用対効果が悪くて不正が起きないのと同様に義務教育教科書の採択でも不正は起きにくくなると思います。
課題は、電子書籍化することで既得権益を奪われてしまう人たちの存在と教科書を電子化することへ抵抗のある保護者、児童・生徒の考え方ですよね。紙の方が便利な局面もありますからね。
まあ、1つのアイディア程度に受け取ってくださいな。教育業界でタブレット端末などを売り込みたいソフトバンクさん、ドコモさんをはじめとする企業の方々は文科省にこういう切り口から提案してみるのも面白いかもしれませんね。
どういう形態にせよ、児童・生徒にとってより良い教科書が作られ、先生方によって素晴らしい授業を行われることを望む限りです。
ほな、さいなら。
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