今回読んだ本は「14歳からわかる生命倫理」(雨宮処凛・河出書房新社)です。少し前の本ですが「倫理」という点においては古びない問を投げ掛けてくれます。
構成は4章立て
第一章「生命倫理」 脳死、代理出産などに。
第二章「安楽死・尊厳死」 ALS(筋萎縮性側索硬化症)、優生思想など。
第三章「出生前診断」 望まない出生・生命訴訟など。
第四章「精子提供」 DI(非配偶者間人工授精)について。
どの章もその分野の専門家や当事者の方にインタビューをしたものを元に構成されており、適宜データも提示されてとても読みやすい文章です。一方で、内容はどれも重たくズッシリきます。誰もが答えを簡単に「コレだよ」と言えないものばかりなので、読みやすいのにページが進みにくいという不思議な読書体験でした。
倫理とは…
読後、そもそも「倫理」ってどういう言葉だっけとググってしまいました。
- 人間生活の秩序つまり人倫の中で踏み行うべき規範の筋道(の立て方)。
- 「倫理学」の略。
なんだかより悩むような言葉が出てきて、秩序って何よ?って思ったり。ただこの言葉から普遍的なものではないことがわかりますよね。人間生活の範疇やすべき規範は時代、場所、文化によって大きく変化するからです。戦国時代の倫理と現代の倫理は違うだろうし、国によっても違います。
ツッコミながら読むべき
この本では明確な「答え」というものは提示していません。またインタビューをまとめたものなので一つのテーマに対して一方向からの意見が目立つ場面があります。インタビューされた方を尊重するのはわかるのですが、その側面だけ見て判断すべきなのか疑問です。
私は大人なので、あえて偏った言説であることを踏まえて「確かに一考すべき内容だ」「いや、これは言い過ぎじゃないか、反対意見を聞いてみたいぞ」みたいに読むことが出来て、そういう意味でも楽しめました。
以前紹介した「東大教授が教える独学勉強法」(柳川範之)で紹介されていた「批判しながら読む」ことがしやすいので疑問から内容を深めていくことが出来ます。
例えば…p.78の下りです。
イギリスのALS患者に対して主治医が説得して、納得させて死なせたと。それを手柄のようにドクターの仕事だと言うエピソードを紹介した後の文章。
背景には宗教や死生観の違いもあるのだろうが、これほどまでにドライな感じとは驚きである。
これって宗教や死生観だけの問題なんだろうか。マーガレット・サッチャーが透析などの高額医療の健康保険を切ったこととは無関係なんだろうか、と疑問が沸きましたが、詳しくは調べていないので関連はわかりません。宗教や死生観が背景なら他のキリスト教の国でも同じようなエピソードが出てくるのかな。やはり疑問です。
*ちなみにALSについて「極めて短期間に徐々に神経が溶けてなくなってしまって、筋肉もなくなってしまう病気です」と本書p.59では紹介されています。
また倫理の問題ゆえ出てくるのは、解決が難しいものばかり。一方で法律を作ってしまうとそれよって傷つく人もでてくるケースもあるわけで。まだ日本人の意識がそこまで至っていないから反対です、という論調も多くて「確かに差別意識は問題だよなあ」と思いつつ「じゃあ、意識が変わった瞬間ってどこでわかるの?」「誰が判断するの?」と色々問題意識が浮かび上がってきます。
本来は両論併記すべき
繰り返しになりますが紙面が限られるのとインタビューという形式上仕方ない部分もあるのですが、ある問題についてはやや偏りが見られます。ただ本書において「答え」は出していないものの一定の主張は当然あるわけです。私が本書から度々感じた主張は「国(日本)にがっかりした」という主旨のものです。
それ自体は別に良くも悪くもないのですが、そうやって「国」や「国民の意識」をなんとかしないといけないという大きな主張をするのなら両論を出来るだけ均等に扱う方がフェアです。ただ本書はそうではないわけで、非常に問題点や論点がわかりやすくまとまっているだけに残念です。
ツッコミながら読めない人はオススメしない
その為、タイトル通り「14歳からわかる」なのかはよくわかりません。本書の内容は知識として知っておくべき内容です。14歳で批判的に読めるのなら、さらに考えるきっかけを与えてくれることになるので良いと思います。逆に大人でもなんとなく活字になったものを無自覚に受け入れてしまうタイプの人は読まない方が良いかもしれません。
一応誤読のないように書きますが、本書の内容や主張がオカシイわけではなく、それを土台に自分自身で考えるのが良い読み方だと言うことです。読みながらツッコミを入れることで自分がどこに疑問を持ち、どこに納得がいって、どこに納得いかないのか確認することで自分が引っ掛かって来る部分が見えてくるはずです。それを考えていく作業が大事なのだと思います。