りょうさかさんと

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りょうさかさんと

教育データ利活用ロードマップを読んでみた


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どうも、教育関係会社員のりょうさかさんです。

デジタル庁から「教育データ利活用ロードマップ」が出てきたので読んでみました。

わたしが気になった部分をご紹介してみたいと思います。

デジタル庁の「教育データ利活用ロードマップ」

デジタル庁の「教育データ利活用ロードマップ」は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されたのを踏まえて発表されました。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」については以前ブログで書いていますので、こちらをどうぞ。

本題に入るまえに抑えておきたいのは「国に子どもの学習履歴が管理される」という言説についてです。

デジタル庁のWebサイトにははっきりと「国が個人の教育データを一元的に管理することは考えておりません」と明記されています。

またロードマップについて「今後も柔軟に見直しを行う」とも書かれています。

その後、いただいたご意見や有識者との意見交換を踏まえつつ、必要な措置について更に深堀りを行い、関係省庁とともにロードマップを取りまとめました。今後、デジタル社会形成基本法に基づき令和3(2021)年12月24日に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とあわせ、多様な関係者との連携の下、着実に施策を推進するとともに、状況の変化を踏まえ、柔軟に見直しを行う予定です。
なお、国が個人の教育データを一元的に管理することは考えておりません。

(引用)教育データ利活用ロードマップを策定しました |デジタル庁

とはいえ、e-portfolioを思い出しても色々と慎重な扱いが必要なのも事実です。

では、本題です。

教育データ利活用ロードマップの目的

「教育データ利活用」では冒頭に短期(~2022年頃)、中期(~2025年頃)、長期(~2030年)という約8年間にわたる工程のイメージ図が紹介されています。

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資料に出てくる「KPI」という言葉は、"Key Performance Indicator"の略称で、日本語では「重要業績評価指標」になります。

サービスや顧客満足など判断しづらいものを評価するための指標のことです。

売上など企業の最終目的をKGI(Key Goal Indicator)というのですが、KPIはKGIを達成するための中間目標という位置づけです。

例えばトヨタが「コネクテッドカーといえばトヨタを目指す!」と目標を掲げても、どういう状況になったら目標達成したのか判断できませんよね。

そこでKGIでは「コネクテッドカーの市場占有率〇%を目指す」を設定します。

次にKPIとして「法人向け新規営業のプレゼン回数を前年比〇%増」というように設定し、最終的な目標に対しての進捗状況を数値で追いかけられるようにするわけです。

用語の説明が長くなってしまいましたが、デジタル庁の上記資料では上段の<目指す姿>が「KGI」、点線より下が「KPI」(中間目標)となっているわけです。

KPIを見ると短期的には「環境整備」中期的には「児童生徒教員の利用状況」長期的には「学力・非認知能力の向上、教員の業務削減」が位置付けられています。

つまり「環境整備」が行われ、しっかり「子どもと教員が利用」し、ようやく「学力などの向上・教員の業務削減」につながるという目標なわけです。

とても当たり前のことを書きましたが、環境整備が行われたり、利用しはじめてすぐ(短期的)に学力が上がったり、教員の業務削減が起きることを目標にしていないんです。

言い換えれば、それぞれの官庁も学力や業務削減などがの結果がでるには8年はかかると考えているわけです。

この辺りを間違えて数年後にタブレット端末を導入しても何も変わらなかったという批判をしてしまうと「そもそもまだそんな段階ではない」で終わってしまうので注意してください。

PDSとは

デジタル庁の資料には「PDS」という言葉が出てきます。

生涯にわたり学び続けることが出来るよう、ライフステージや場面に応じたリテラシー習得の機会提供、学びの成果の可視化、識別子(ID)やPDS(Personal Data Store)・情報銀行の活用の在り方について論点を整理。

(引用)教育データ利活用ロードマップ(令和4(2022)年1月7日)デジタル庁/総務省/文部科学省/経済産業省

PDS(Personal Data Store)について、総務省の資料ではこのように書かれています。

(1) PDS(Personal Data Store)とは、他者保有データの集約を含め、個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組み(システム)であって、第三者への提供に係る制御機能(移管を含む)を有するもの。運用形態としては、個人が自ら保有する端末等でデータを蓄積・管理する(事業者は本人の同意によりデータを活用できる)分散型と、事業者が提供するサーバ等でデータを蓄積・管理する(個人は当該事業者にデータの蓄積・管理を委託する)集中型がある。
(実際にデータをやり取りする形態と、データをやり取りせず必要な時にアクセ
ス権(閲覧のみ可、コピー不可など)を提供・管理する形態もある。)(太字引用者による)

(引用)データ流通環境整備検討会AI、IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ中間とりまとめ(案)平成 29 年2月データ流通環境整備検討)

「PDS」とは「個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するシステム」とあります。

運用方法としては「分散型」(個人が自ら保有する端末などに蓄積・管理する)と「集中型」(事業者が提供するサーバなどに蓄積・管理する)の2つがあります。

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今回の「教育データ利活用ロードマップ」で想定しているのは、文脈から察すると「集中型」のようですが、このデータの扱いについては法的な部分を含めた検討が必要だとも言及されています。

データの扱いの矛盾とメリット

というのも「個人が自らの意思でデータの蓄積管理」するPDSを「全児童生徒にさせる(させようとしている)」ことの矛盾です。

デジタル庁の資料でもこのように書かれています。

・関係省庁において、例えば以下のような事例・論点が把握された。今後、必要に応じ、個人情報の保護に関するガイドライン等における対応を含めて検討するとともに、更に制度面・運用面で改善すべき点がないか引き続き検討。
・また、内閣府知財事務局及びデジタル庁が今後策定する、プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装ガイダンスも参照しつつ、教育分野固有の論点(例:児童生徒本人が契約主体となれないこと)についても検討を深める。 

例えば「個人情報の取り扱い」「民間教育機関との情報共有の在り方」「中学校・高校間の情報共有」が具体的な課題となります。

一方でメリットも存在します。

例えば、子どもたちので情報は自治体内でも縦割りで管理されています。

○現在、教育・保育・福祉・医療等のデータ(※)については、自治体内でも教育委員会、保育部局、福祉部局、医療部局、税務部局等、それぞれの部局で管理されているとともに、児童相談所・社会福祉法人・医療機関・学校等の多様な関係機関があり、それぞれの機関がそれぞれの役割に応じて、保有する情報を活用して個別に対応に当たっている。 

このバラバラになった情報に横ぐしを通すことで、支援が必要な子どもを漏らさないようにすることができるんですね。

デジタル庁の資料では、既に先行している自治体の例として大阪府箕面市の「子ども成長見守りシステム」、兵庫県尼崎市の「子どもの育ち支援システム」を例に挙げて紹介しています。

「教育データ利活用ロードマップを読んでみた」のまとめ

「教育データ利活用ロードマップ」にはこれ以外にも様々なことが書かれていますが、文章量が長くなってきたので一旦ここで締めたいと思います。

今回のポイントは以下の4点です。

  1. 国が個人の教育データを一元的に管理することは考えていない。
  2. 学力や業務削減などがの結果がでるには8年はかかる見込み。
  3. 「個人情報の取り扱い」「民間教育機関との情報共有の在り方」「中学校・高校間の情報共有」などが課題
  4. 実現すれば支援が必要な子どもを漏らさないようになるかも。

高度経済成長期ではない現在、どんな施策であっても全員が幸せになるなんてことはないでしょう。

今、現在行われている教育施策すら教育格差を維持・拡大していることを忘れてはいけません。

教育データ利活用も同様です。

この施策が実現して救われる児童生徒もいれば、不利になる児童生徒は必ず現れるでしょう。

また短期と長期によって受益者が変わるということもあるでしょう。

e-Portfolioの反省点を生かすのであれば、個人の識別はできなくし成績や入試選抜への利用も避ける方が自然だと思います。

現時点では、あくまでロードマップです。

国民の声によって前進も後退も可能な段階ですから、ぜひ、あなたも考えてみてください。

それでは、また