塩田千春さんの展示会に行ってきました。正直に言えば「PIXARのひみつ展」と同時開催だったので、どんな感じなのかな、と覗くような気分で入場しました。
塩田千春展:魂がふるえる | 森美術館 - MORI ART MUSEUM
最初は綺麗だと思った
わたしは塩田千春さんという芸術家について一切知りませんでした。展覧会に行く前も、今もよく知りません。本当に何気なく触れたのです。
下の写真は「不確かな旅」という作品の一部です。
部屋に置かれた幾つかの船から赤い糸が天井まで絡まって伸びあがり、無数の赤い糸が天井を覆っています。
最初に見た時は、なんて綺麗で鮮やかな作品なんだろうと思いました。撮影もOKなので多くの人がこの展示を写真に撮ったり、記念撮影のようなものもしていました。
わたしも同じように写真撮影しました。
無数に織り込まれた赤い糸を見ながら、どういう発想をすればこういう作品ができるのかただただ圧倒されたことを覚えています。
映画監督のゴダールは「映画を撮る時にわたしは何か新しいものを作っているんじゃない、わたしは組み合わせているだけなんだ」と言ったそうです。
この作品の柱になっているのは、「船」と「赤い糸」という2つのアイディアです。
「船」とは「人」や「人生」を表しているのかもしれません。「赤い糸」は「運命の赤い糸」という言葉があるように「人と人との繋がり」を表しているのかもしれません。
きっと見る人によって感じ方は変わるのでしょう。
誰もが知る船と赤い糸を組み合わせてこんな美しい作品ができるなんて。そんな風に感嘆していたのです。
そして、軽い足取りで次の展示に向かいました。
折り重なってくるもの
スケール感や美しさに目を奪われつつも他の展示を見ていくうちにドンドン印象がかわっていく自分がいました。こんな作品やパフォーマンスの動画がありました。
ピアノと椅子から黒い糸が紡ぎ出され天井まで広がる部屋。
動物の骨を集めて削り、並べたもの。
四日間断食をして、木の根から全裸で転げ落ちる動画。
横たわった全裸の女性、その女性を繭のように包む採血用のチューブ、そのチューブの中を動く血。
天井から赤い糸で吊るされた無数のトランク。
見ているうちに鳥肌が立ち、頭痛がしました。逃げ出すように小走りで展示会を後にしました。それは、圧倒的な狂気に触れたとしか表現しようがない体験でした。
反芻するように
ブログの趣旨とは違うので、塩田千春展について書くつもりは当初ありませんでした。
何より「不確かな旅」を含めた塩田千春展の写真を見たくなかったからです。思い出しただけで軽い吐き気がしてくる芸術に触れたのは始めてでした。
それでもこの体験を文章に残しておきたいと思って書き始めました。何度も写真を見直していくうちにようやく落ち着いてきたように思います。それでも確かな異物として身体の中に塩田千春さんの作品が残っていることに変わりありません。
わたしにはまだ消化することが出来ないモノが残っているのです。こんな体験をした展示会はこれまでの人生でありませんでした。
(蛇足)2019年7月14日の産経新聞に「塩田千春展」が紹介されていました。「不確かな旅」では280キロメートルの赤い糸が使われているようです。「集積‐目的地を求めて」では吊るされたトランクは440個もあったようです。