りょうさかさんと

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JAPAN e-Portfolioとは、結果だけを見る入試から「過程」を見る入試に変えるツール


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先日、「JAPAN e-Portfolio」について推進委託事業を任されている関西学院大学の尾木義久先生の講演を聞く機会がありました。

そこで語られた内容の一つが「JAPAN e-Portfolio」とは高大接続入試改革の一つのツールであるということでした。

(Photo by Will H McMahan on Unsplash

JAPAN e-Portfolioとは?

「JAPAN e-Portfolio」(以下、JeP)とは何かご存知でしょうか?

そもそも「ポートフォリオ」って言葉自体が聞き慣れない方もいると思います。

金融用語のポートフォリオは有名ですが、教育用語のポートフォリオはピンときませんよね。ポートフォリオとは、「書類を運ぶケース」という意味です。

金融用語なら金融資産を書類に見立てて、どのように分散投資しているか把握するのに用いますよね。

今回は、教育用語としての「ポートフォリオ」ですから、児童・生徒はどのような学びをしてきたのか把握するために「レポートや日々の活動」を一つにまとめる「入れ物」。このようなイメージを持ってもらうとわかりやすい良いと思います。

JePの公式サイトの説明文は、以下のような言葉から始まります。

高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」とは、(中略)高校eポートフォリオ、大学出願ポータルサイトです。高等学校では、生徒の学校内外の活動をeポートフォリオとして記録し、生徒の振り返りを高校教員が確認できます。

(引用)JAPAN e-Portfolio|「JAPAN e-Portfolio」とは?

つまり「学校の授業や行事、部活動などでの学びや自身で取得した資格・検定、学校以外の活動成果」を蓄積し、大学入試時に活用できるようにするものです。

この学びの蓄積が「ポートフォリオ」で、それを大学入試にも活用しようね、ということなんです。

利用時期と参画大学について

このJePが利用されるのは実証事業としては平成31年度入試(2019年度)からです。この実証事業を経て、本実施となるかどうかは今後の様子次第ということです。

実証事業に関しては、2017年度入学の高校1年生(2018年現在高校2年)から利用することになるわけです。

参画大学については、日々増加傾向にあります。

この記事を執筆している時点の入学者選抜としての利用は、群馬大学、大阪教育大学、千葉商科大学、岐阜聖徳学園大学、皇學館大学、同志社大学、立命館大学、大阪医科大学、関西大学、関西学院大学、九州共立大学 の11大学となっています。

一般入試から、AO入試、推薦入試と利用の仕方は様々です。

わたしが尾木先生の講演を聞いた時点では入試利用10大学参画大学101大学でした。

最新の情報は、公式サイトをどうぞ⇒

JAPAN e-Portfolio|JAPAN e-Portfolio参画大学一覧

生徒利用数と高校の利用数

講演会の資料では、JePの生徒利用数、今後の利用見込が掲載されていました。具体的な数字をそのまま転載はダメだと思うのでザックリとした数字だけご紹介。

現在の利用生徒数は10万人以上、2021年度の利用見込は高1~3を含めて100万人以上となっています。

東洋経済オンラインの2018年4月の記事では、高校利用数が掲載されています。

このe-Portfolioを、2018年2月1日現在で約1200の高校が利用。全国の高校の数は5000校なので、約4分の1が利用している計算になる。

(引用)全国の高校で導入中、活動記録サイトの正体 | 学校・受験 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

おそらく「想像以上の数の高校で導入されているなあ」と感じられたと思います。それには色々な理由があるでしょう。その中の要因の一つが入力項目の数です。

このJePの入力項目数は、8分野100項目の合計800だと言われています。もちろん全てを入力する必要はありませんが、かなりの量と時間がかかることが誰にだって想像がつくでしょう。

これを「高校3年生になってから一気にやれ!」っていうリスクを高校の先生(特に校長先生)がどう考えているか。それが、この実施状況に反映されている部分だと思います。

「一部の大学の利用だし、まだ取り組まなくて良いだろう。生徒と先生の負担になるだけで可哀想だ」という高校もあれば、逆に「普段の生徒の頑張りを把握するのに活用できる。それに入試直前にこんな量を入力させるのは可哀想だ。今からコツコツさせておくか」という高校もあるということです。

あなたならどちらの高校が良いと思いますか?

JAPAN e-Portfolioは入試改革ツール

さて、「JAPAN e-Portfolio」がどんなものなのかはご理解いただけたと思います。

このJePによくある批判が、所詮調査書だろ? というもの。またその延長として部活動、ボランティアなどを入試で評価することについての懸念です。

入試のためにボランティアするってどういうことなのよ? という発想は、「JAPAN e-Portfolio」の説明だけを見るとごく自然な感想だと思います。

その辺りの疑問を解決するために、どうしてJAPAN e-Portfolioが現れたのかという経緯を考えた方がしっくりくるでしょう。

結論から書くと、このJAPAN e-Portfolioは、大学入試改革のツールとして生まれました。大学入試改革について詳しく書き始めると長くなるので、割愛しますが、大学入試改革それ自体はなんとなくご存知だと思います。

改革が必要だということは、現状に不備がある、ということの裏返しです。

今の入試で良いのか?

これまでの大学入試は、ペーパーテストが中心でした。それに一石を投じる形で現れたのがAO入試。昨今では東京大学も推薦入試を始めるなど取り組みが進んでいます。

ペーパーテストでの入試、特にマークシートタイプの試験の大きな利点は2つあります。多くの生徒を効率よく捌けるという大学側のメリット、記述式と違い採点が公平・公正という受験者側のメリットです。

一方で、1点差、一度の試験で全てが決まることがそもそも公平なんでしょうか?

そもそも「学力」とは何のなのか? 入試って「学力」を測るモノですよね?

学力が高いというのは、暗記力のことなのか? という疑問が出てきます。世の中には超難関大学を卒業していて「学校の勉強はできるのに・・・」な人に出会うことも珍しくありません。

学力とは何か? 文科省はちゃんと定義しています。解説したのはこちらの記事。 www.ryosaka.com

詳しくは上記事を読んでいただくとして、「学力」とは「知識・技能+主体的に学ぶ意欲+問題を解決する資質能力」のことです。

たしかに「知識・技能」だけであれば「AI」に置き換わる人間になりそうです。だから「学力」の要素には、「知識・技能」以外の2つの要素を入れているんですね。

そして、現状のペーパーテストでは学力の要素のうち「知識・技能」しか読み取れないわけです。これでは本当に「学力」を評価した入試と言えるのでしょうか。

結果だけを見る試験から過程を見る入試へ

ペーパーテストだけでは不十分ではないか、そういう風に文科省が考えているのはご理解いただけたと思います。

では、「主体的に学ぶ意欲」「問題解決する資質能力」をどのように見て、生徒たちを評価すべきなんでしょうか。

これらはその場で一緒に指導した先生しかわかりません。じゃあ、調査書でいいんじゃね? という意見が出てきそうです。でも、調査書にも疑問がありますよね?

先生という1人の人間が生徒を公正公平に見ることが出来るのでしょうか。

実際、わたしも高校時代に教師に嫌われて、ある技能教科の評定ではペーパーテストは5段階評価で「5」のレベルなのに1年間中間テスト・期末テストの全ての点数を79点にされたことがあります。(わたしの通っていた高校では80点以上から「5」の評価)

こんな先生に調査書を書かれていたら大変ですよね。良くも悪くも主観が入りますし、出来るだけ排除しようとしても人が書く以上、仕方ない部分なのかもしれません。

でも、出来るだけ客観的にするためにはどうしたら良いでしょうか?

例えば「部活動」。部活動におけるその生徒の「個人実績」なら客観的に評価できますよね。

「課題研究・探求課題、論文・レポート」の場合はどうでしょうか? 本当に自分で書いたの? グループ製作ならどの程度関わったのかな? そういう疑問が生まれますよね。 

でも、書く過程で読んだ参考文献が全て書かれていたり、役割分担や改善点が自分の言葉で書かれていたとしたら、客観性が増しますよね。

では「部活動」「レポート」だけで十分でしょうか?

もっと沢山の要素が集まれば客観性が高まりそうな感じがしませんか?

じゃあ、「学校行事」「ボランティアの活動」…こういったものドンドン集めていきましょう。

そうやって色々な学びや活動の足あとが集まって出来上がるのが「JAPAN e-Portfolio」というわけです。

ちなみに同様のことが論文でもきっちり書かれています。こんな感じです。

森本ほか(2017)は,e ポートフォリオには二つの役割があることを指摘している(図1).一つは,学校内での授業や探究活動だけでなく,ボランティアや部活動などの課外活動を含めた学習プロセスにおける「主体的・対話的で深い学びを促進させるツール」としての役割であり(図1右),もう一つは,学びの結果としての「学習の成果を引証づけるエビデンス」の役割である(図1左)

(引用)初等中等教育におけるラーニング・アナリティクスの展望―主体的・対話的で深い学びの促進と高大接続改革におけるe ポートフォリオ活用の視点から-

 「知識技能」を測る試験(ペーパーテスト)と「主体性」「学ぶ意欲」「問題解決する資質能力」を測る「JAPAN e-Portfolio」を合わせて、ようやく「学力」の全ての要素を測ることができるというわけです。(正確には「JAPAN e-Portfolio」でなくても、ポートフォリオであれば良いです)

ポートフォリオが教えてくれるのは、「学びの過程」です。

つまりこれまでは「ペーパーテストの結果」「一発勝負の結果」、極端に言えばそれだけを評価してきました。でもこれからは「学んできた過程」も含んで評価しよう。

そういう風に高大接続の改革が進んでいるということです。

結果だけの世界が良いか、過程も評価する世界が良いか

とても極端な2択の問題を出しましょう。

「ペーパーテストの結果を評価する世界」。これは入試改革前の世界。わたしたち大人も経験してきた世界です。

「ペーパーテストだけではなく、学びの過程も評価する世界」。これは入試改革後に訪れるかもしれない世界。わたしたち大人には経験がなく、これからの子ども達が経験するであろう世界です。

どちらの世界が良いと思いますか?

この2つの選択のうち文科省は、後者を選びました。とても大袈裟に言えば。

この選択は、結果だけを求め、求められてきた保護者には馴染まない世界です。でも、自分の子どもが入試の日に、調子が悪い可能性だってあるはず。

人間の調子は、テレビゲームみたいに可視化されていません。顔文字で教えてくれる世界じゃないんです。

そんな時、「過程」も評価してくれる世界だったら…。

JAPAN e-Portfolioは、まだ実証事業中。このまま頓挫するかもしれないし、想定通り実現するかもしれません。

「学びの過程」を評価し、今まで報われなかった子どもも報われる世界があっても良いと思うんです。そんな世界へのツールの1つにポートフォリオがなると良いですね。

では、また。 

JAPAN e-Portfolioに否定的な記事も書きました。