今回は先日行われた大学入学共通テストの試行テストについてです。
大学入試センターが試行調査を行う理由は色々あります。例えば、入試形態の変更、つまりゲームのルールが変わるわけですから、公平性を担保する必要があります。
わたしが着目したいのはテストを通じた先生、生徒へのメッセージです。メッセージの内容は「高校生から論文、レポート、研究をしようね」というもの。
では、どういう形でそのメッセージが送られているのか、見ていきましょう。
*具体的な問題、解答などが見たい方はこちらをどうぞ。
平成30年度試行調査 問題、正解等_1111|大学入試センター
(Photo by Hans-Peter Gauster on Unsplash)
問題のねらいを見てみよう
先生、生徒へのメッセージは幾つもの場所を使って何度もされています。例えば、大学入試センターが発表している「問題のねらい」を見てみましょう。
国語ではこのように書かれています。
探究レポートを書くに当たって,文章を読んで考えをまとめる場面で,二つの文章を関連付けながら,構成や展開をとらえるなど,テクストを的確に読み取る力,及び設問中の条件として示された目的等に応じて思考したことを表現する力を問う。
(引用)【国語】問題のねらい,主に問いたい資質・能力及び小問の概要等
日本史Bではこのように書かれています。
協働的な探究活動の場面の中で,同じ時代を「開発と人々との関係史」,「災害と人々との関係史」という二つの主題からとらえ,資料から情報を取り出す技能,資料が持つ意味を評価したり,歴史的事象を多面的・多角的に考察したりする力を問う。
(引用)【日本史B】問題のねらい,主に問いたい資質・能力及び小問の概要等
英語(リーディング)の第二問Bでは探求活動といった直接的な表現はありませんが、読み取る能力と概要や要点を捉えること力を問う問題があります。
学校における生徒の携帯電話使用の是非についてディベートの準備をする場面で,平易な英語で書かれた短い説明文の読み取りを通じて,その概要や要点をとらえる力や,書き手の意見を把握する力を問う。
(引用)【英語(筆記[リーディング])】問題のねらい,主に問いたい資質・能力及び小問の概要等
「問題のねらい」以外には書かれていなくても、問題文に化学基礎なら第三問で「実験に関する報告書を読んで解答する」、世界史Bでは第一問Cで「メモつくりを始める」といった設定で論文、レポートなどを絡めた出題方法をしています。
課題研究・探求課題を通して得た経験が武器になる
この世界史Bで見られる問題の場面設定を絡める方法は他の教科でも見られます。数学I・Aでは直接的な表現はありませんが、建築基準法を引き合いにだし、日常生活の疑問につなげるような出題があります。(第一問(3))
試行テストの国語の第二問では「著作権に関するポスター」と「著作権法」の2つの資料を把握しながら問題を解くシーンがあります。
この資料を解釈して成果物(ポスターや論文、パワーポイント)を作るのは課題研究・探求課題を行う際に必ず体験する過程です。
上で紹介した英語(リーディング)のディベートの準備という設定も課題研究・探求課題をしていれば当然、経験する作業です。
課題研究・探求課題の発表は、ポスターセッションかパワーポイントが主な方法です。発表後には必ず聴衆から質問を受けます。その質問がどんなものか事前に想定したり、反対意見についても返せるように準備をする必要がありますよね。
つまり高校の授業で、課題研究・探求課題に取り組んだ経験があれば生徒にとっては違和感のある問題ではなくなるわけです。
これって一発勝負の入試の場面では大きなアドバンテージになると思うんですよね。
このように問題を一つ一つ見ても、そういうような要素が散りばめられていることがおわかりいただけたと思います。
入試センターは堂々と宣言している
わたしがこのように指摘したことは隠されているのではなく、堂々と、そして前々から宣言されています。
こちらは約半年前のプレテストの趣旨の文章です。
(3)「どのように学ぶか」を踏まえた問題の場面設定
○ 共通テストでは、高校等における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し、授業において生徒が学習する場面や、社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等をもとに考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視することとしています。
○ 問題の中では、教科書等で扱われていない初見の資料等が扱われることもありますが、問われているのはあくまで、高校等における通常の授業を通じて身に付けた知識の理解や思考力等です。初見の資料等は、新たな場面でもそれらの力が発揮できるかどうかを問うための題材として用いるものであり、そうした資料等の内容自体が知識として問われるわけではないことに留意してください。
(引用)「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨について(平成30年6月18日)独立行政法人大学入試センター
社会生活や日常生活から課題を発見して解決する場面、資料やデータ等を元に考察する場面などは、まさに「課題研究・探求課題」と言われる取り組みに合致する部分です。
即戦力を求める大学
なぜ課題研究・探求課題を大学側や大学入試センターが重視するかというと日本の論文数が減少傾向にあるからだと言われています。
そこで、今、大学は「論文を書ける、研究のできる」ような即戦力になりうる大学生を欲しているわけです。
そして、高校時代に課題研究・探求課題といった経験をした受験生が有利になるようにゲームのルールを変えているんです。
今、課題研究・探求課題をカリキュラムとして入れている高校に通っている学生さん・その保護者の方は不安な部分もあると思います。課題研究・探求課題をカリキュラムで扱うということは他の部分を削っているわけですからね。
でも、安心して下さい。その経験は目先の大学受験にも、将来の人生にもきっと役立つはずです。
一方、そういうカリキュラムのない高校に通っている学生さん、その保護者の方はこういうルール変更は不満だと思います。また、こういう出題形式が変わってもどれだけ意味があるのかと半信半疑だと思います。
もしまだ年数的に可能なら論文やレポートにチャレンジしてみてください。各省庁がやっているような「おカタイ」テーマでも良いですし、ハードルが高いと感じるのなら趣味をテーマにしても良いと思います。(宇宙や星が好きならそういうものをテーマにする等)
まず一度、「自分でテーマを決めて、参考文献を読んで理解し、それに自分の意見を加える」、そういう作業を経験しておくことが大切だと思いますよ。
よく新入社員に即戦力を求める企業が話題になりますが、高校生にも即戦力が求められる時代なんです。では、また。