陵坂と考察と

教育関係会社員が教育を中心に考えたこと、思ったことを書きます。

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少子化なのに学参の発刊が増える理由

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どうも陵坂です。みなさん書店さんに足を運んでいますか? 

出版業界は厳しいと言われています。一方でベストセラーとなる書籍が現れます。教育関係なら「うんこ漢字ドリル」(文響社)が一斉を風靡していますよね。

日本一楽しい漢字ドリル うんこかん字ドリル 小学1年生

日本一楽しい漢字ドリル うんこかん字ドリル 小学1年生

 

問題集、参考書、ドリルなどの書籍のことを出版業界では「学参」と呼びます。実は「学参」に新規参入する出版社が増えているんです。

「うんこ漢字ドリル」を出版している文響社も元々はねこの写真にコメントを載せた「人生はニャンとかなる」とかを出版している会社です。

どうして学参に参入する出版社が増えたり、学参の新刊が生まれるのか。その背景について書いていきたいと思います。

結論から言えば「実は学参の3つの特性によるメリットが大きいという理由です。

出版業界の動向

出版不況と言われるように出版業界の売上は年々下がる一方です。出版界の2大取次の一つ日販のWEBページには以下のグラフが掲載されています。

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(引用)出版業界の現状(日販)

17年前の2001年には2.3兆円だった出版業界の売上も2015年には1.5兆円となっています。2017年には紙だけに限れば約1.3兆円の市場となっています。

(参考)2017年出版市場(紙+電子)を発表しました|全国出版協会

16年で約1兆円近い売上が吹き飛んでいることがわかります。 

本が好きなわたしとしては悲しいですが控えめに言って斜陽産業です。まだまだ売上は下がると見るのが当然となっています。

さて、こんな厳しい出版業界ですが学参と絵本は踏ん張っています。ここ数年では昨年対比100%を超え、売上の割合では微力なものの頑張っていることがわかります。

学参書は、2015年から3年連続で100%超となった

(引用)日販/2017年の雑誌・書籍・コミック売上4.7%減(2018.02.16)|流通ニュース

どうしてなのでしょうか?

少子化という現状

出版業界の売上が年々下がっているのには色々な要因があると言われています。人口減、読書離れ、スマホをはじめとした娯楽の多様化、電子書籍の普及と海賊版サイトの存在などなど。これら以外の要因もあるかと思います。

学参では特に少子化の影響をダイレクトに受けます。顧客の数は児童数・生徒数に基本的に左右されるからです。

「おじいちゃん・おばあちゃんが孫に買う」「大人だって学び直しに購入する」というケースもありますが「両親が子どもに買う」ケースが圧倒的に多いため、子育て世代の人口、年収、子どもの人口が重要な要素です。

下の表はこどもの人口がどのように減っているかの推移を表しています。

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(引用)我が国のこどもの数- 「こどもの日」にちなんで- (総務省)

子どもの数がこれだけ減っているのに、わざわざ出版社が学参を発刊する事情はなぜなのでしょうか。それは当然、出版社側に学参を発刊するメリットがあるからです。

出版社視点の学参業界

学参のメリットとはなんなのか。他のジャンルの書籍と比較することで見出していきましょう。大きくは3点の要素から学参を発刊するメリットがあるのですが、それについて解説していきましょう。 

①本の寿命

本の命を意識したことがある方がどれくらいいるでしょうか。イメージした書籍によっては「長い」と思われるかもしれませんし、「短い」と思われたかもしれません。

夏目漱石など歴史的な文豪の小説などはとても寿命の長い書籍です。もう原価の回収はずっと前に取れているので売れる限り利益を生んでくれるでしょう。

しかし、そういった寿命の長い書籍は非常に稀です。多くの書籍は1~2ヵ月で売れなければ返品され、その後市場に出るチャンスは閉ざされます。

雑誌をイメージした方は「短い」と思われたことでしょう。週刊少年ジャンプのようにめっちゃくちゃに売れる雑誌でも1週間経てば、ほなさいなら、と店頭から去り次の号にバトンタッチします。ビジネス、ファッション誌も同様ですよね。

販売力のある雑誌でも基本的には次の号が出るまでの間しか書店には陳列されません。1週間~1ヵ月というケースが大半を占めます。(雑誌のバックナンバーを販売をする店舗は少数例です)

つまりほとんどの書籍や雑誌の寿命は売れても売れなくても1ヵ月程度という非常に短い期間がほとんどであることがおわかりいただけると思います。

学参の寿命

学参の寿命はどれくらいでしょうか。実は短いもので約半年。通常の学参では4年は寿命があると考えて良いでしょう。またよほど売れない限り棚からゼロ冊になることはないと思います。

どうしてこれほど学参は長いのか?

まず短い半年という学参は何か。それは年度版の過去問・対策本と呼ばれるジャンルの問題集・参考書です。大学入試の過去問題集であれば直近の試験内容を反映した新年度版が6~7月頃には店頭に並び始めます。

過去問を入試直前に買う方もいますが、多くはその前に買って対策を始めるので7月~翌年1月くらいまでの寿命となり半年となります。

では長い方の4年となる根拠は何か。それはこの4年というのが指導要領や教科書の改訂の周期だからです。指導要領の変更によって小6で習う内容が中1に移動することがありますし、その逆に小6で習う内容が小5に降りてきたりすることがあります。

そうなった時にそのままの問題集を販売することは出来ませんよね。なので、問題集の寿命は基本的に発刊してから次の指導要領が変更されるまでという長期間になります。

学参は季節商品という側面も持ちます。新学期にドカッと入荷し夏休み前には新学期用の商品は返品という流れです。

普通の書籍だったらそこで天寿を全うするんですが、問題集の場合は来年の新学期に全く同じ商品をドカッと入荷してもらうことができるわけです。

これを4年間くり返すことが出来る。これは雑誌や書籍ではなかなか出来ない学参ならではの特性です。

アニメ化も映画化もされないのに同じ商品が何度も毎年同じ時期に出荷できるメリットは本の寿命、出版社側の商売のしやすさという点があります。

②発刊点数が増えて、注文数も増える 

本の寿命という点だけとっても雑誌などに比べて美味しい商売だということがご理解いただけたと思いますがメリットはまだあります。それは発刊点数です。

例えば、小学校でドリルシリーズを発刊すれば1年~6年まで1教科につき6点を発刊することになります。えっ、当たり前だって? でも、これを書店さんの立場になって考えてみてください。

これ、書店さんが注文する時は基本的に6の倍数になるってことなんです。(中学校なら3の倍数)

コミックならドラゴンボールやワンピースなど超スーパーヒット作品であれば1巻から新刊まで全巻揃って陳列されている書店も多いはず。しかし、少し前のコミックや普通程度の人気のコミックなら新刊から遡って3巻くらいまでしか置いていないケースって多いですよね。

書店の陳列棚が物理的に限られているからスペース上仕方ないのですが、このように全てを「置かない・置けない」のが書店さんの基本です。

一方、小学校のドリルで同じことが出来るでしょうか? 「3年生は置くけど、6年生は置かない」。売り切れを除けばそんなの見たことないでしょ。そんな陳列の仕方を書店さんは出来ません。

だって、そんなことしたらお客さんはどう思うでしょうか。普通のお客さんは、あえて置いていないのではなく売り切れだと思いますよね。

「売り切れたあとに補充していない管理の悪い書店」⇒「きっと他の書籍も売り切れたまま放置している可能性が高そう」⇒「じっくり見比べたい時はこの書店には行かないでおこう」と考えてその書店から逃げてしまいます。

つまり、必ず各1冊以上から注文することがベースになるわけです。

小学校のものなら1教科作れば、6冊、12冊、18冊…。という形で注文数が来るわけです。

書籍一冊を10冊仕入れてもらおうと思うと結構大変なはずですが、学参ならシリーズで注文を取ることが出来る。ドリルで国語と算数の2教科を発刊すれば、各3冊の発注でも36冊になります。これが全国1000店舗という規模になれば書籍と学参の発注数の差は凄まじく開きます。

もちろんそれだけの量を発刊するのですから返品のリスクも大きくなります。しかし、1つ目のメリットである寿命のことを思い出してください。発刊初年度にある程度の実績を作ることが出来れば、4年間は同じ商品をシレっと出荷して送品することができるんです。

これが出版社のドリルを発刊するメリットの2点目です。

③電子書籍に馴染みにくい

最後に学参のメリットとして「電子書籍に馴染みにくい」というものがあります。電子書籍はスマホ、タブレット端末から電子書籍リーダーで読まれることが多いと思います。

学参はそもそも電子書籍化されていないものが多いのですが、それは「書きこむ」ことが前提の商品が大半を占めるからです。

特に小学校向けのドリル、問題集は判型自体もA4版と大きいものが多く、仮にスマホ版の問題集があったとしても使いにくいと思います。

また幼児や小学生に電子書籍やスマホを使わせることに抵抗のある保護者も少なくありません。

問題集は特に解き切ったという達成感が次の勉強に向かう力を生むケースも多く、物理的に半分まで終わったとわかる要素も大切です。(そのため、解いたページにシールを貼る問題集・ドリルが多く存在します)

買う側の立場に立てば、問題集は中を見比べて買いたい人が圧倒的に多い。そういう時にAmazonの中身を見るより書店さんに行って陳列されている中から好みにあったものを選択する方が簡単です。

(逆に言えば、Amazonが買う前の書籍の開いたページを2冊並べて見ることが出来るようなサービスを開始したらヤバいね)

余談

高校生向け、大学入試向けの教材は電子書籍化することでニーズのあるものも多いと思います。しかし、学参系の出版社でそういったものを発刊している会社はあまり思い浮かびません。

英語の文法書、数学の参考書、理科の図説関係などは電子書籍と相性が良いはずです。

電子書籍上のリンクから例えば理科なら実験の動画やシミュレーションを見るページに飛ぶことの出来るなどの付加価値を付ければ喜ばれるでしょうね。採算が取れるかどうかが課題ですが。

(ちなみに単語帳はアプリになっています。旺文社さんのターゲットをはじめ各社、それぞとっても工夫されているから受験生はアプリと単語帳の併用がいいかもよ)

まとめ

・問題集、ドリルは4年間も同じ商品を売り続けることが出来る。

・シリーズ発刊になるから多めに受注してもらいやすい。

・電子書籍の影響がまだあまり来ていない。

というわけで、少子化なのに学参の発刊が増えているんですね。こういう視点で教育業界や出版業界を見てみたり、書店さんに足を運ばれると色々発見がありますよ。

じゃあ、また。 

「本を売る」という仕事: 書店を歩く

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