りょうさかさんと

教育業界にいる陵坂さんが教育・子育て・DWEなどについて書くブログ

りょうさかさんと

イーオンを取得したKDDIについて教育環境の背景を解説


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どうも、りょうさかさんです。

さて、こんなニュースが飛び込んできました。教育業界の風が変わるのか、変わらないのか、どちらになるでしょうか。

KDDI、英会話のイーオンHDを買収 :日本経済新聞

詳しくはこちらの方がわかりやすいです。

イーオンホールディングスの株主異動について | 2017年 | KDDI株式会社

外国語教育の分野は2020年以降、小学校における英語教科化、大学入試における英語4技能試験の導入や、訪日外国人観光客の急増に伴うインバウンド需要への対応など、外国語学習ニーズの高まりが想定され、国内では成長が期待される市場であると考えられます。(中略) 今後、両社のアセットを融合し、AI技術を活用した学習者向けのカリキュラム最適化支援や、VR技術を活用したバーチャル英会話プログラムなどのサービスを検討しています。

(注・太字は引用者によるもの)

これを機にKDDIさんの株価も上がっています。市況としては好材料と判断してのことなんでしょう。でも、少し疑問に思いませんか。

KDDIさんが教育業界にさらに深く参入するわけですが教育業界は成長産業でしょうか?(自分も属しているので悲しい言葉) 

だって少子化がこれほど叫ばれているんだぜ。昨年2016年の出生数は100万人を切り97万人。英会話が重要だと思う方も多いと思いますが、スマートグラスなどの技術が進めば不要になるかもしれません。この両面から先細りの見えている業界ですよね。

そんな中、KDDIがこのような判断をした「教育環境の背景」について解説したいと思います。具体的には次の4点について情報を整理してみましょう。

1.動画授業が今、教育業界で熱い

いわゆる情報革命による教育環境の変化は進んでいます。例えばリクルートさんの「スタディサプリ」。

ちょうどこのニュースが出た日に掲載していたダイヤモンド・オンラインの記事がわかりやすいので未読の方は御覧ください。

diamond.jp

「スタディサプリ」のメリットは月980円という低価格で授業の動画が見られること。これに近いサービスは学研さんをはじめとする出版社やその他の塾などもあり、熾烈を極めるレッドオーシャンですよね。

以前、不登校の記事でも紹介しまたが学研さんなどは書店で市販されている問題集の解説動画を無料で見ることができます。ちなみにこれはあまり知られていませんが他の問題集を発刊している出版社さんもしています。

先生向けの授業動画サービスについてはチャート式の数研さんが「アクティブ・ラーニング型授業に関する動画」などを製作しています。

今までは保守的と言われた学校現場が変わりつつあります。この動画授業を活かした「反転授業」という授業も少しずつですが取り組む学校も出ています。

動画授業の活用

少し話が脱線してしまいますが、少子化はこのまま深刻になる一方です。そこで重要になるのではないかと私が考えているのはこの「動画授業」です。

今でも過疎地には学校はあるけれど塾はないというケースはざらにあります。少子化になっても子どもが住んでいる地域は都会以外にもあるでしょう。そ

ういった時に「スタディサプリ」をはじめとする「動画授業」は市場としては小さいかもしれませんが「教育の機会の平等」ということを考えた時に社会貢献として価値あるものだと思います。 

2.ICT環境の整備状況

ここで学校側の運用する環境について状況を確認していきましょう。タブレット端末が学校で生徒向けに既に使われているのはご存知ですか。

ちなみにこちらはNTT東日本さんがかなり食い込んで事業をされています。

平成27年度(実施期間は平成27年9月から平成28年7月まで)は、江戸川区・清瀬市・小金井市・西東京市・東大和市・武蔵村山市(五十音順)の6自治体が採択されました。

平成28年度は、既に足立区・江東区・国分寺市・小平市・調布市・府中市(五十音順)の6自治体が採択されています。

東京都教育庁様 | 導入事例 | 法人のお客さま | NTT東日本

2013年9月に荒川区で全小中学校にタブレットPCを導入したのを皮切りに上記のように進んでいます。千代田区、品川区、渋谷区、新宿区でも小中学校の児童・生徒用に導入されています。

(参考)

先導自治体 注目の取り組み|DiTT デジタル教科書教材協議会

1人1台のタブレットで学校はどう変わるのか 品川区の公立小学校で、ICTを活用した学習にとりくむ 第1回(全5回) | 学研キッズネット for Parents

電子黒板、電子教科書、Windowsタブレット等導入。新宿区立小中学校のICT化と未来の学び

ICT教育【渋谷区】

また港区のようにまだ児童・生徒用はまだでも学校に1クラス分40台を導入し、授業の内容に応じて使えるようにしている区市も多いと思います。今後1クラス分⇒学校全体と段階的に導入していく学校が増えていくでしょう。

タブレット端末を導入する際の企業側のメリットは学校側の設備投資もセットで舞い込んでくることです。タブレットは格安レンタルであっても、Wi-Fiなどの環境が学校側になければ使用できません。

また公立は税金で運営していることもあり、導入した以上、学校側は使う必要があります。

じゃあ、使うためにはタブレットだけでは成り立たないわけでアプリなどのソフトが必要になります。以前、東京書籍さんの「マチアルキ」も紹介しまたがこういうアプリを使った授業がタブレットを導入した学校では必須になります。

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つまり教育業界に参入するなら自前でコンテンツを持っていた方が売り込み易く、収益性も上げやすいのではないかと仮定を立てることが出来ます。

予算規模の関係からこのICT化に伴う動きは東京都が早い部類に入るでしょう。もちろん佐賀県のようにさらに先進的な自治体もありますが、ICT普及が広がるまで早くても10年はかかるのではないでしょうか。

ちなみにKDDIさんは既に学校市場に参入しています。例えばこういうの。

福岡県福岡市におけるICT教育実証研究の実施について | 2014年 | KDDI株式会社

<KDDIグループ×Z会・栄光グループ> ICTを活用した学校教育サービスの提供を2015年度中に開始 | 2015年 | KDDI株式会社

ただシステムやハードの開発は自前で出来ても、学校現場向けの教材開発が弱いわけです。イーオン取得はこの部分を大きく補強できるようになるはず。

そう考えればこのタイミングで「まだ間に合う!」とKDDIさんが教育業界に参入を決断したのは納得できますよね。  

3.スピーキング重視に大学受験

小学校英語の記事でも書きましたが今後はスピーキングが重要になると推測しています。

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スピーキングは会話なので定型のやり取りに拘らないものをリアルに体験できるとより効果的です。現時点ではプレスリリースにある「VR技術を活用したバーチャル英会話プログラム」がどんなものなのかわかりません。

もしVRを用いた「AI」と自宅で会話をして英語力が身に付けられるものが手に入るのなら欲しい方も多いのではないでしょうか。AIによって毎日新しいやり取りをすることができれば、実際の英会話でも臆せず話せることが出来そうです。

たぶん既婚者のサラリーマンとか買うと思うよ。VRのエッチな動画を見たいけど妻になんて言い訳したら良いかわからない夫にとってはちょうど良い言い理由になるわけだし(笑)

企業側として開発費がどれくらいになるかわかりませんが教室を開く家賃も人件費もいらないというメリットがあります。逆に言えば英会話の講師がAIの進化でなくなる職業になるかもしれないってことですね。 

4.日本の教育は海外で評価が高い。

どの教育業界の会社も考えていることだと思うけどいかに海外展開できるかということ。国内市場は人口減によって縮小するので、このプランを避けるわけにはいきません。

日本の教育って文部科学省が叩かれることが多いけど、世界的にはしっかりとしたカリキュラムがあるだけでも評価されています。ジャパン・ブランドがあるわけです。

日本国内でシェアを取ることが出来れば、あの日本で評価されているのならって興味を持つ国は必ずあると思います。

また日本語って当たり前だけど日本人しか話さないわけで、そんな国の人口が1億越えていて、GDPが世界3位なわけで。海外の人もVRとAIで日本語習得できるなら喜んでくれるかも。

まとめ

・学校現場、教育業界において「動画授業」のニーズが高まっている。

・学校現場のICT環境の整備はまだこれから、まだ間に合う。しかも英語教材を自前で出来るかも。

・スピーキング重視の流れが「英会話」の強みを活かせる

・日本国内で得たノウハウを生かして海外展開できる。

おそらくこんな教育環境の背景を把握した上で、じゃあ、既存の教育業界の他社でここまで出来る会社があるかというとあまり思いつかない彼我の関係もあるんじゃないでしょうか。 

かなり好き勝手書かせていただきましたが、KDDIさんのイーオン取得は短期・中期的には国内の学校市場(設備・スピーキング)に狙いがあり、長期的には語学教育ジャンルでの海外進出を狙っていると読み解くことが出来るのではないでしょうか。

*これはKDDIさんが長期視点で教育業界、特に学校環境に関わることを前提としています。短期・中期的に取り組み、その後部門ごと売却もあり得るでしょうし、そもそも学校市場にグイグイ入ってこないのかもしれません。