りょうさかさんと

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高等教育の無償化は本当に「天下の愚策」なのか?


大学のイラスト

「教育の無償化」についてどう考えればよいのでしょうか。2017年11月3日の産経新聞のiRONNAというコラムコーナーで米山隆一新潟県知事が書かれています。タイトルは「高等教育の無償化は「天下の愚策」である」と刺激的なタイトルです。

今回はこれについてツッコミを入れていきます

 米山コラムの内容

ironna.jp

米山知事のコラムの内容はシンプルにまとめるとこの4点です。

  1. 無償化の財源はどうするのか(税金の使い道を変更or増税)
  2. 無料だから人が殺到して老人医療費無償政策が失敗した前例がある。
  3. 大学進学率54%が無償化で80%になると予想できる。大学に行かない生徒を大学に入れてもモラトリアム享受機関になるだけである。
  4. 無償化の課題は4点①どの教育を無償化にするのか。②対象の範囲と社会に利益があるのか。③財源問題。④①~③を満たしても無償化によって前提が変わるかも

詳しくはぜひ原文をお読みください。

教育無償化の政策

さて「教育の無償化」の政策については各党共にある程度掲げています。

その中で「高等教育(大学)の無償化ないし奨学金の拡充、授業料半減、授業料減免」を掲げた政党は、

  • 公明党
  • 希望の党
  • 日本共産党
  • 立憲民主党
  • 日本維新の会
  • 社民党

の計6党になります。

(参考)http://www.maniken.jp/pdf/2017sosenkyo-seisaku-hikaku.pdf

(参考)https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2017/point/point02.html

「自民党」は、公約には書いていませんが似たような趣旨を主張しています。

つまり詳細な内容は違えどほとんどの政党が共通した課題を持っていることがわかります。

(参考)高等教育無償化、2案に絞り検討 数兆円規模の財源課題:朝日新聞デジタル

財源の問題

選挙が終わって実際に動き出しつつありますが、米山知事の指摘する1財源の問題については財務省が早くも文句をつけています。

教育無償化「適切でない」/財務省提言 自民公約 早くも縮小

一方で米山知事が指摘する他の問題も起こり得ることなのでしょうか。について考えてみましょう。

学生の殺到はあるのか

まず大学入学が無償であれば学生が殺到し、老人医療無償政策のように失敗するのでしょうか。確かに人は増えそうな気がしますがどうなんでしょうか。

老人は確かに独居老人といった方達は話し相手欲しさや誰かに親切にされたいという思いで病院に行くことも多いのでしょう。

一方で高校生は遊びたくて大学に行く人がどれだけいるのでしょうか。こういうことは比べてもあまり一概に言えませんが、簡単に比べることが出来るものがあります。

それは人口です。

老人は増え続け、高齢者がさらに高齢化し続けますが、高校生の数は減り続ける一方です。それを単純に比較して良いのかという問題です。

以前も紹介した「未来の年表」(河合雅司)によると 

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

 

高齢者については…

2015年の国勢調査によれば、65歳以上人口は3346万5441人で、総人口に占める割合は26,6%に上る。すでに4人に1人が高齢者という「超高齢社会」(高齢化率21%超)なのである。

高校生については…

日本の大学進学者は、高校新卒者もしくは受験浪人が大多数を占めるので「18歳人口」を見れば、おおよそのパイの見当がつく。そして「18歳人口」というのは18年前の年間出生数をみればわかる。では、18歳人口はどのように推移するのであろうか。(中略)2018年あたりから再び減り始める。(中略)2032年には100万人を割り、98万2000人となる予測だ。

なんか殺到しても高齢者の医療の方が遥かに大きい問題になりそうですよね。

この減り続ける若者が増え続ける高齢者を支え続けるわけで、この若者の収入が少しでも高くなるのなら数的に圧倒的に多い高齢者の税金で支えるのは理屈としておかしくないように思います。 

モラトリアム享受期間になるのか

3の「大学に行かない生徒を大学に入れてもモラトリアム享受機関になる」という部分についても考えてみましょう。

「モラトリアム享受機関になる」と仰っていますが、今も一部の大学・学科はそうなんじゃないでしょうか(爆)

とはいえ、現職の知事が今もそうだとは立場上言えないわけで、これは無償化とは関係ない「大学改革」の話だと思います。

この米山知事の指摘は重要で私はこれまでも「学歴が社会では重視されて大学で学んだ内容が重視されない風潮はおかしい」と書いてきました。そして、その兆しが出てきました。

www.ryosaka.com

解決策として入学試験を変えることも大事ですが「卒業を難しくする」ことが最も必要だと思います。

卒業が難しければそもそも遊ぶ為に大学に行かなくなるわけで懸念は解決しそうです。

行きたい子が金銭面に気にしなくていけるようになるなら「高等教育の無償化」って「愚策」じゃなくなるんでは。

まとめ

AIによってなくなる仕事が今後山ほど生まれるわけです。

AIに取られない、人間に残る仕事って人間しか出来なような「価値づけ」をするタイプの仕事か、AIを導入した方がコストが高くなるような低コストの仕事なんじゃないでしょうか。

そういう世の中がくる可能性が非常に高い現在。

大学教育でそれが全て解決するとは言えないけれど、大学へ勉強する為に行きたい学生は応援してあげたいと思うのでした。

「天下の愚策」って「高等教育の無償化」が「愚策」なのではなくて「卒業が簡単な大学を放置していること」なんじゃないかな。